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人のセックスを笑うなのkoyaのレビュー・感想・評価

人のセックスを笑うな(2007年製作の映画)
4.5
「今、世の中が求めているのは実感なんだよ」

 行定勲監督の『セブンス・アニバーサリー』で、 失恋すると尿道結石になる女の子がその石をアクセサリにしたら流行に。
それに近づいてくる青年実業家の津田寛治のセリフです。
「わたしは失恋した」という気持だけでなくなにか「物」としての実感を人々は求めている・・・ということですね。
何かで実感したい、という。

 この映画は、恋愛を描いていますが、正確に言うと「失恋と片思い」の映画。
「この恋、もう、おしまい」なんです。

 『人のセックスを笑うな』という少し過激なタイトルですが、映像は静かで、これみよがしな映像マジックや特撮はありません。
舞台になるのは、地方都市らしく、山や田園風景が広がるところ。
19歳の美大生、磯貝みるめ(松山ケンイチ)
同級生のみるめが好きなえんちゃん(蒼井優)
実はえんちゃんが好きらしい同級生の堂本(忍成修吾)

 しかし、みるめ君は、39歳の女性、ユリ(永作博美)と恋に落ちる。
ええええ~~~~って、口をひょうたん形にして驚くえんちゃん。
ほうほう、へえへえへぇ~~~~と傍観者の堂本。

 20歳年上なのはいい。
でも、え、知らなかった、結婚してたの!!!!!!!
みるめ君、大ショックで凹みまくる。
恋に呆ける、みるめ君・・・・・・・・・・・・・・。
会いたい、でも、ダメだ、会いたい、ダメだ・・・ううううううう。 携帯電話を封印してみても、ぶるぶる・・・と鳴る携帯電話。
えんちゃんは、傍でいらいら、いりいりしている。

 みるめ君の恋の凹み方は、全くもって正しい(いうのかな)なんともウロウロ・・・でも、同時に「上手くいかなかった恋に凹む自分」しか見えてなくて、そばにいるえんちゃんのことなど・・・「どうでもいい」

そんな身勝手を身勝手と描かず、ああ、つらいなぁ、つらいよね・・・でも、そばにいるえんちゃんもねぇ・・・というしみじみとした実感を空気として出してくる。
決して、嫌なこと、とは描いていません。自然のこと、これが当たり前なんだよって。

 この映画、恋愛を描いていても台詞に「好き」と一度も出てこないんですね。
はっきり好きだ・・・・と言うことがありません。
また、「失恋した」とか「ふられた」といった言葉も慎重に避けています。

 みるめ君が恋する、39歳の永作博美の甘え上手なところが、小悪魔的に魅力的。
みるめ君に、「こどもかよ・・・」とか呆れさせることもあれば、お姉さんのように、「ダメだよ」と叱る。
おどけるような、こどもをからかうような、ふざけるような・・・決して、「もてあそぼう」なんて考えてはいない。

ユリは、えんちゃんに近づいて、「ねぇ、おごり、おごられる仲になろうよ」と言いますが、
えんちゃんに「結婚してるんでしょ」とずばり、言われても、「う~ん、つきあっちゃ・・・ダメ?かなぁ?」と可愛らしく言うのに絶句。
そして「ねえ、みるめ君に触ってみたいと思わない?」と言われて、実は図星のえんちゃん、また絶句。
ユリの方が上手。

 映画なのだからフィクションなのですが、会話や空気が本当に自然で、普通の友人同氏が他愛のないことを話しているように・・・ 恋人同士がひそひそ、くすくす話すように・・・これみよがしな会話は一切ない・・・そして、うまくいかない恋に呆けるみるめ君。  

 えんちゃんはヒステリーは起こさないけれど、ユリの個展でのクッキー仕返し、ホテルのベッドで泥酔するみるめ君の上を最初は軽くぴょんぴょんしていたのが、だんだん、ドスドスドスっと、やけくそのようになるところなど精一杯の反抗というのもいじらしい。

 この映画の「恋の実感度」ってすごく高いんですね。
映画であっても映画じゃない・・・でもフィクションであってもリアル。
恋したときの楽しさ、嬉しさ、つらさ、悲しさの実感が実にいい空気で流れてくるのです。

これは恋に恋する恋気分の人には作れない。
ただただ、好き!好き!好き!を連発するのが恋でなく、またタイトルでは「セックス」と出していますけれど、「寝た=恋愛」ではない、ということですね。

 恋に凹む・・あきらめきれなくて凹む、みるめ君もいいですが、傍観者のような堂本君(大相撲ファン)が最後の最後に「ちょっ」っていうところにドキ。
あれはねー、上手いですよ。
知らん顔して、脇役だったのに、ちゃっかり入り込んでくるような男の子。いいな、、、なんてね。
それに対するえんちゃんのじたばたじたばたぶりっていうのも、実に可愛らしいけれど、これみよがしでなく、自然です。

 「この恋、もう、おしまい」という妙な潔さを感じさせる映像の数々。
しかし、それでも、恋するというのは必要なんだなぁ、人に恋する気持は自然なんだなぁ、という失恋を描いた「恋愛肯定映画」
だから、観終わった後、みるめ君は、えんちゃんは、堂本は・・・・と思うと後味悪くなく、むしろ、「若者だもん、どんどん恋愛せいよ!」なんて思ってしまうという。

 こういう恋がしたい、または、こんな恋したくない・・・そういうレベルで語る映画ではないと思います。
だから、現実逃避ではなく、現実実感映画という、これはかなりハイレベルなことをやってくれたな、とわたしは嬉しいです。
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