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パラダイスの夕暮れのkoyaのレビュー・感想・評価

パラダイスの夕暮れ(1986年製作の映画)
4.2
「新婚旅行に行こう」
「いいわね。食べていけるの?」
「毎日、イモだ」

そして仕事もなにもかも投げ捨てて新婚旅行に行くふたり。

アキ・カウリスマキ監督の初期の作品とはいえ、理由理屈内唐突さと、それをごく自然に受け入れてしまう世界が好きです。

余命少ないから、とか、身分違いの恋だから、とか、そんなものは関係なく、好きになったからつきあいませんか?いいですよ。

スーパーに勤めているけれどいきなりクビです。でも、仕事はすぐに見つかるけれど、なんとも言い難い怒りの背中を見せているイロナ。

そんなイロナに手の傷を手当してもらってから好意を抱くようになる男。
まるで学生のように純粋。

つきあいませんか、いいですよ、明日、出ていくわ、今日でもいいよ・・・・・・唐突につきあい、唐突に別れる。
くだくだしい説明はなく、さりげなく理由を語るでなく、見せる。

ずっと音楽が流れ続けているけれど、登場人物たちの心象に沿ったものとはいえず、落ち込んでいるのにアメリカンロックだったり、様々です。

男はゴミの中からレコードを拾う。
レコードに耳を近づけてみるところが好き。

留置所で一緒になって、ごみ収集の相方になる身体の大きな男の人がもう、とてもいい人。

お金貸して、と言われれば、幼い子供の眠るベッドにある貯金箱から・・・・・・涙ぐましい友情。

少しだけ出てくる主人公の男の妹が精神病院に入っていて、訪れた兄に「寂しい」と言うところが妙に印象に残る。

本筋ではないところで、ちょっとしたユーモアや哀愁が見え隠れして、寒々しい街はやはり寒いけれど、それでも生きていくんだな。
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