もものけ

ダーティ・メリー/クレイジー・ラリーのもものけのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

ラリーは相棒と共謀してスーパーマーケットの売上金を狙った強盗に成功する。
しかし、一夜を共にしただけのメリーが押しかけてきて、警察に追われるハメになるのだった…。







感想。
クエンティン・タランティーノ監督がこよなく愛する、逃亡劇ロード・ムービー。
アメリカン・ニューシネマ後期の作品でもあることから、ラストの結末が話題ですが、登場するマッスルカーを使ったクレイジーなカースタントこそ、作品の一番のポイントに思えます。

とにかくタイトルの通りにラリーが全開でぶっ飛ばすカースタントは、クレイジーそのものです。
命なんて惜しくないレーサーが、ドデカく短い人生を華々しく散り咲かそうと思えるほど、儚くもある姿をピーター・フォンダがまたカッコよく演じております。
悪態をつきながらも離れられない運命の二人のラブストーリーもあって、現代のツンデレの元ネタかのような二人の漫才が可笑しくも悲しい。
ホイールスピンさせながら高トルクのエンジンを唸らせて走り出し、フルブレーキで停止するなど、力の限りマッスルカーの性能を見せつけるスピード感あるカーアクションは、映画史に残るほどの迫力です。
撮影テクニックや警察との追走シーンなどのセリフ、カメラワークが傑作「マッドマックス」に影響を与えたかのようなシーンがあり、カーアクション映画のパイオニア的存在ではないでしょうか。
そしてなんといっても、それらのスタントをピーター・フォンダ自身が行っているというのが、彼のカッコよさを引き立てる憧れの存在感。

トルクにポテンシャルの全てを振り切ったダッヂ・チャージャーが登場してきてからは、さらに物語が加速するかのように美しいフォルムと荒くれを合わせ持った車に釘付けになります。
クラッシュさせた車の数は50台ともいうアクションは、無軌道なラリーが社会に投げかける反抗心の現れかのよう。
V8エンジン独特のドロドロというエンジン音がたまりません!
CGIのない時代に高度を下げたヘリとの追撃戦は、迫力がハンパないです。

逃げ延びたかにみえた途端、列車に突っ込みあえなく三人は死んでしまいます。
とんでもないラストでした。
燃え上がるダッヂチャージャーを背景に、エンドロールが突然流れますが、しばらく放心状態になります。
無軌道な人生を歩むと、突然終わりが訪れるというかのような寓話。

作品は主人公二人とアバズレの三人で構成されており、三人の人間関係がドラマ性を生むように工夫されています。
短いながらもそれぞれの人生観が描かれており、アバズレであるメリーは人生に絶望的で何も変わることはないと諦めている純粋な女性であることが分かります。
対してラリーも金を手に入れてレースカーに乗っても、自分のテクニックでは限界があることに悲観して、無軌道な生活を繰り広げる負け犬です。
そしてディークも酒が自分自身から離れられない苦悩を吐露しております。
こうした社会に取り残されてヤケになっている三人を主人公に、当時のアメリカ社会を背景として描き、一度落ちたら這い上がれないアメリカンドリームの夢うつつさを表現しているように感じます。

こんなダメな三人なのに、人殺しをするような悪人ではなく、絶望的な逃避行というスタイルは、若者自身と重なるイメージであり、彼らをヒーロー視する目線で観客は"逃げ切ってくれ"と、深層心理で強く願い、辛い現実社会を吹き飛ばしてくれるかのような疾走シーンで"自由"を疑似体験させられる作品です。
そしてアメリカン・ニューシネマとしての悲劇的ラストに、一気に現実へ戻されて映画館を後にするのでした。

三角関係をモチーフにしたかのような三人のやりとりも注目。
逃避行の結末と、三人のラブストーリーの行く末の2つにワクワクさせる構図をアクション映画に取り入れているのも面白い。

ラストの畳み掛けるような唐突さは、もしかしたら"夢"なんて見続けないで、"現実"と向き合えというメッセージにもとれました。
早熟な若者達への問いかけを感じさせられます。
アクション映画であることは、若者が週末デートで鑑賞する作品でもあり、より若者へ対して強いメッセージを込めて伝えやすい作品としたのかもしれません。

でもやっぱり、一時の成功を夢見て短く太く生きて散る人生へ、何故か憧れが強くなってしまうアクション映画の傑作へ、5点を付けさせていただきました!!

ピーター・フォンダは、とにかくサングラスが似合う役者の一人ですね〜、カッコ良すぎです。
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