GodSpeed楓

柳生一族の陰謀のGodSpeed楓のレビュー・感想・評価

柳生一族の陰謀(1978年製作の映画)
5.0
1978年公開の本作は、2代目徳川将軍・秀忠公の死によって始まった3代目の跡目争いを描いている、超豪華キャスト、スタッフでお送りする超傑作。
萬屋錦之介、千葉真一、松方弘樹、西郷輝彦、丹波哲郎、三船敏郎、真田広之(激若!)… etc.
実力者ぞろいの彼らの真に迫る演技には舌を巻く。特に徳川家光公を演じる松方弘樹の吃音や、手段を選ばず天下を目指す狂気の表情、そして柳生宗矩を演じる萬屋錦之介の無慈悲さ、そして絶望の慟哭は本当に素晴らしい。

外連味の溢れる派手な殺陣、残酷無比な策謀、そして壮絶な展開と結末といい、"エンタメ時代劇の完成品"と言っても全く過言ではない。観終わった直後に飛んだメニュー画面から、そのまま即座に2週目を再生したのは久々だった。今迄未鑑賞だった事が本当に恥ずかしい限りである。

権力者にとって不利になり得る事実は捻じ曲げられ、歴史上で隠蔽される。つまり"歴史の裏側で本当はこんな事があったのかもしれないよ?"というスタンスで制作されている物語なのだが、本編開始数分で秀忠公の毒殺から跡目争い勃発!という流れに入って、あっという間にパラレル世界線に突入するのは笑いが堪えられない。実際にあった出来事を、同じ人物を登場させて違う結末にしよう!という点で言えば「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」と同じやり口だと思って良い(良くない)。きっと上記作品のファンも楽しめるはずだ。

太平の世である江戸時代に将軍が暗殺されるなんて既にあり得ないのだが、そんな血生臭い話に作り替えてしまってるので、あまり史実にこだわらずに観れるほどにエンタメ全開という事だ。ちなみに足利幕府であれば嘉吉の乱、永禄の変、本圀寺の変(失敗したが)のように、将軍達が憂き目に遭わされているので、個人的には是非それらも映画化をオススメしたい。

当然、実在の人物である登場人物達も盛大にデフォルメされている。剣術や兵法のレジェンドである柳生宗矩がバリバリ策謀家として大活躍している時点で凄い。いくら家光公の信頼厚いとは言え、血も涙も無い策謀で女子供すら容赦なく始末する姿には目を覆いたくなる。あの世で石舟斎様(宗矩パパ)も泣いておられるぞ!謝れ!愛を知れ!

尚、やたら剣術の強い公家の烏丸少将文麿には「お前のような公家がいるか!」とツッコミを入れたくなるのだが、なんとお前のような公家は存在しない。彼は本作のオリジナルキャラクターなので、騙されないようにしよう。馬泥棒に勤しむ十兵衛ちゃんの姿を目に焼き付けるための"やられキャラ"である。

そんな中で、あえてツッコミを入れたいのが小笠原長治の語り草だ。彼は事実剣豪ではあるのだが、柳生新陰流に対する嫉妬心にバリバリ溢れていて、忠長公に協力する敵キャラである。(彼の目的は柳生新陰流の否定、そして真新陰流を認めさせるのが目的なので、悪人ではない)

彼の初登場時、自身の目的を語る際に「我が師、上泉伊勢守」と言っているが、彼の師は奥山公重殿である。奥山殿は"レジェンド・オブ・ソードマスター"である剣聖・上泉信綱公と1年くらい一緒に武者修行していたので、紛れもなく新陰流継承者の一人で良いのだが、恐らく小笠原は信綱公と会った事すら無さそうな気がする。せいぜい疋田殿(信綱公のガチ弟子。弟子入り前の柳生をボコった張本人)に会ったぐらいが関の山なので、一体どういう神経で「我が師」なんて言っているのか、全くふてぶてしい奴だ!プンプン!
※この段落は、上泉信綱公が大好きで群馬県の上泉町まで訪問した僕が、思わず指摘したくなった野暮なツッコミで構成されているので、どうか読み飛ばして下さい。

本作の問題点をあえて挙げるのであれば、全編を通して呼び名や言葉遣いが全体的に難しく、登場人物や会話内容を把握し辛い可能性がある。
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柳生宗矩 ⇒ 但馬守(たじまのかみ)
小笠原長治 ⇒ 源信斎(げんしんさい)
松平信綱 ⇒ 伊豆守(いずのかみ)
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などなど、役職や通称で呼ばれる人物が多い。歴史ファンの方々にしてみれば垂涎ものの呼び名ではあるのだが、言葉遣いも徹底して現代語を使用しておらず、もしかすると日本人でも慣れていないと20代~30代の方ですら会話内容を聞き取る事ができない可能性があるのではないだろうか?僕は大人になるまで本作を観ていなかった事は非常に後悔しているが、大人になった今でないと、ここまで楽しめなかったであろう事を鑑みると、
良いタイミングだったのかもしれない。

しかし、"時代劇"とは本来こうあるべきだ。迂闊に現代語が混ざってくると、急に冷めてしまう。そこを譲る事なく"時代劇の再興"を目指している本作は、まさに日本が誇るべき超大作だ。
※小田原征伐での忍城の戦いを描いた某作品は、題材と野村萬斎が最高だったのに、言葉遣いと周りを囲む政治を感じる登場人物達に台無しにされてしまった事を僕は忘れない。

尚、古い作品なのでストーリーは全てwikipediaに載っている。言葉遣いが難しくて理解できない点は、そちらで補足できるので参考にしよう。なんなら登場人物一覧だけでも参照しながら映画を観ても良いくらいである。
※もはや歴史の勉強みたいになってしまうが…。

本作で描かれた歴史は、幕府によって隠蔽されたものだとすると、これが創作だと証明する術はない(悪魔の証明みたいなものだが)。そちらサイドの視点で観た方は、是非「本当は家光公ってね…」と友達に教えてあげよう。みんな一緒に"天井に薙刀"のシーンで大爆笑したという話題で盛り上がれるはずだ。

汚いなさすが柳生きたない。
GodSpeed楓

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