GodSpeed楓

アングスト/不安のGodSpeed楓のレビュー・感想・評価

アングスト/不安(1983年製作の映画)
3.8
「刑務所を出所した狂人が、とたんに見境のない行動に出る。」という、シンプル極まりないあらすじ(そうFilmarksに登録されてる)が実は全てなのだが、もう少し具体的に説明するとすれば「殺人衝動を持った男の行動記録」のようなものだろうか。

本作の異常さを際立たせているのが、殺人鬼に全く"技術"が存在していない点だ。殺人衝動や荒唐無稽な脳内の計画が身体を突き動かしているものの、全く身体がついていかないというか、何一つうまくいかず、行き当たりばったりで即座に計画変更を余儀なくされる。この"思考"や"冷静なモノローグ"と"行動"の乖離、そして失敗するたびに浮き出る慌てっぷりは凄まじく、当の本人のストレスもさる事ながら、観てるこっちがイライラして笑えてくるほどである。しかし、自分の中で組み立てた手順を崩されると極度のストレスを感じるタイプの人は現代でも散見されるため、彼の異様な慌て方、パニックは見ていて少し苦しく感じるものがあった。

近年、一体何の影響かは分からないが映画に限らずマンガ、アニメでも「サイコパス=ハイテンションで高笑い」みたいな安っぽいキャラクターばかりが登場して辟易しているが、本作の殺人鬼こそ、まさに"サイコパス"と呼んで差し支えないだろう。クールな振りをして、自分自身すらコントロールできずに、殺人を繰り返しているのだから。

診断側も世の中の"常識的な価値観"に辻褄を合わせるような診断結果を出しているのが非常に興味深い。実際にアンドレイ・チカチーロの捜査も"連続殺人は資本主義でしか発生しない"という先入観から対応遅延に陥っているという事実があるのだが、これは現代でも十分に有り得る思い込み、または"願い"のようなものかもしれない。「理由なき殺人はあり得ない」「幼い頃に何かがあった」など、理由付けが出来ないものに民衆は不安になる。それでも、社会的に混じりこめない、一般的な思考から飛躍している、更生が困難な人間は必ず一定数存在する。受け入れがたい、看過できない話だけどね。

全編を通して4曲ぐらいしかBGMが無かったような気がする。それもタンジェリン・ドリームみたいな反復を繰り返す陰鬱な曲ばっかりで笑ってしまったが、作曲は案の定クラウス・シュルツェ大先生だった。相変わらずの芸風がさぁ!最高だよねぇ!(興奮)
※尚、シュルツェ大先生は本作の内容を知らずに制作したらしい。それを知って再度爆笑した。

ずっと暗い路地でのシーンが続いた直後に、やたら明度が高い明るさの背景で犬のアップを写すシーンが異様に眩しくて、正直目に悪い。このせいで犬の印象が強いんじゃないかと思うほどだが、この犬がいる事で心の平穏が保てているという説もある。でも犬で癒された分の反動が襲ってくるので、これも一長一短ではなかろうか。

ちなみにソーセージの食べ方が汚くて、食欲は全くそそられなかった。
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