GodSpeed楓

殺しが静かにやって来るのGodSpeed楓のレビュー・感想・評価

殺しが静かにやって来る(1968年製作の映画)
4.6
真っ白な雪山が舞台である、異色の西部劇。「BLAME!」の霧亥どころか、「ゴリラーマン」の池戸よりも喋らない完全無口の男が主人公を務める、マカロニ・ウエスタンの超傑作。白い背景に浮かび上がる漆黒の衣装に色黒の肌。親指を撃ち、相手に"ガンマンとしての死"を与えるという不殺の戦い方。そして目を疑う壮絶なラスト。一見、ミスマッチのような要素が詰め込まれているが、これは紛れもなく"西部劇"である。近年ヒットしたゲームの「レッド・デッド・リデンプション2」で最初の舞台が雪山だったので、プレイ時には本作をふいに思い出した。

また、エンニオ・モリコーネの物悲しいテーマ曲が見事で、切ないメインフレーズの背景に、延々とループする1コードのリフを溶け込ませており、本作に漂う無情さを見事に表している。雪原がよく似合う、よく冷えた楽曲だ。

前述しているが、雪山という舞台や壮絶など、とにかく意表をついてくる設定が印象深い。モーゼル使う西部劇の主人公なんて他にいたのか?しかし、一言も喋らない事によるギャップかもしれないが、リンゴ狙い撃ちでドヤ笑顔を見せるサイレンスが不思議と可愛い。滅茶苦茶腹立つ感じだったのに保安官もサイレンスには少し優しくて可愛い。

主役のジャン=ルイ・トランティニャンのカッコ良さも見事だが、クラウス・キンスキーの極悪非道な悪役っぷりが最高だ。いちいちキレ散らかす事も無く冷静沈着。保安官をも欺く狡猾さ。そして共通の敵をチラつかせる事で仲間を増やす話術。そして容赦の無さ。表情や声、喋り方含めて悪役以外の何者でもない演技を見せつけてくれる。

余談だが、DVDに収録されている別エンディング映像は「THE・ありそうなバカ展開」で最高に笑えるので必見。もう馬が走ってきた瞬間に大爆笑してしまい、そのまま一気にカタを付けるという爽快感。このエンディングだったら喜ぶ人もいるかもしれないが、ここまで築き上げてきた展開やイキフン(ふんいき)を全て台無しにする激アツっぷりなので、こちらにしなかったのは英断である。
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