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英国王のスピーチのericoのレビュー・感想・評価

英国王のスピーチ(2010年製作の映画)
3.0
運命が彼に与えたものより、奪ったもののほうがずっと多いのかも知れない。左利きやX脚の矯正は、英国王室に生まれた彼の重圧を感じさせるし、吃音症もその影響を仄めかされる。
兄の影で自信も持てずにいた彼が、兄のスキャンダル絡みの退位によって国王に祭り上げられる皮肉。折しも、時代は第二次世界大戦の前夜と来ている。

ジョージ6世というドラマチックな人生を歩んだ人物を主人公とした点は素晴らしかったと思うが、肝心のスピーチはうまく消化できずに宙吊りのままになってしまった。ジョージ6世という個人を考えるとき、このスピーチは確かにひとつの達成ではある。が、彼が行ったのは「戦争スピーチ」であり、国民をその後第二次世界大戦へと導くものだった。このスピーチの後に続いた歴史を考えれば、決して単純なハッピーエンドとしては描くことができないはずだ。

件のスピーチの間に流れる、重厚で悲壮なベートーヴェンが、作り手としての「歴史認識」の現れだったのかも知れないけれど。明言は避けた逃げを、どうしても感じざるを得なかった。
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