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ルームのericoのネタバレレビュー・内容・結末

ルーム(2015年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

部屋の扉を開くと、世界はどこまでも広がっている。そこに生まれて初めて足を踏み出したジャックが、世界が広くなった分、母との関係が遠くなる、というようなことを言うシーンがある。
7年の監禁を経て、5歳の息子と「世界」に再び戻る。その状況ははっきり言ってしまうと私の想像を軽く超えていて、そこから何を読み取ればいいのかずっと迷っていた。制作側にも、その迷いから生じるブレは少なからずあったのではないかな、と思えるが、基本的にはジャックの視点から見た物語としてこの映画を語らせている。母ジョイの姿はあくまでジャックの目を通した姿に留めているけれど、ジョイの視点によって語られたのであれば、全く違った映画になるのだろう。
私たちは「世界との距離」をほとんど無意識のうちに形成していくが、ある日突然に世界への扉が開け放たれたジャックは、5歳にしてそれを急激なスピードで学んでいかざるを得ない。彼が世界との近さ、あるいは遠さに触れるとき、私たちも改めてその距離を問いなおす。それは自分の「個」の輪郭を辿り直す過程でもあるのだろう。
それまで自分と一心同体だった母が、ほんとうは「他者」であることを、ジャックとジョイは少しずつ学んでいく。あの部屋からようやく解放されたけれど、外の世界にはまた新たな痛みがある。これまでと全く異なる痛み、世界で生きていく痛みだ。
あの部屋は母の胎内であり、扉を開けたときにもう一度ジャックは誕生したのだろうと思う。そして彼の「個」としての萌芽が、少しずつ育っていく。この映画の全てが、「出産」に類似したプロセスなのだと気が付く。

ただ、映画の中で大きなポイントとなるはずのインタビューでの問いは、もう少し「善意のなかの心なさ」であったほうがリアリティがあった気がするし、最後にジャックに言われたとは言え、ジョイがあの部屋を再訪するまでに葛藤のようなプロセスが全くなかった点も少し引っかかった。ほかに細かいところでリアリティが少しずつ欠けていた点は残念かな。
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