erico

グランドフィナーレのericoのレビュー・感想・評価

グランドフィナーレ(2015年製作の映画)
4.0
「グランドフィナーレ」が、ずっと見てみたかった"youth"だと暫く気が付かなかった…

元指揮者や、彼の長年の友人の映画監督、離婚の危機にある指揮者の娘、かつてのヒット作を引きずる俳優…などが集う、アルプスの高級ホテル。彼らが手にした過去の栄華をきっぱり捨て去るか、あるいはそれに縋るかはそれぞれとしても、彼らの「今」を縛る呪縛であることに変わりはない。

幻想的な映像と、詩情に溢れる言葉を暫くはただ楽しむで良いと思う。急速に求心力を増すのは、ラスト30分ほどだろうか。

若さは確かに素晴らしい。けれど、そのあとに続く人生は、その残滓でしかないのだろうか。若さを失ってからの人生のほうがずっと長いのに、わたしたちはその失い方がよく判らない。仲良し爺さんふたりは、全く逆の方法で人生を続けていく。過去を美しいまま保つためにそれを封印するのか、それとも過去を振り払うために未来に野心を燃やすのか。いずれにしても、現在を直視しない点では同じことで、やがて彼らはふたりとも行き詰まる。

もしかしたら、若さというのはまだ何も手にしていないから輝かしいのかも知れない。手に入れるためにあんなに必死だったのに、気付けばそれこそが自分を不自由にしている。身動きがとれないままに時間だけが過ぎ、気がつけば目の前には死が口をあけて待っている。

若さを失い老いていくことは止められないから、きっとわたしたちの喪失感もなくならない。でも、この映画はちゃんと明るい、ということに泣かされる。決して絶望しない爺さんに拍手を贈ろう。
erico

erico