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ヤンヤン 夏の想い出のericoのレビュー・感想・評価

ヤンヤン 夏の想い出(2000年製作の映画)
4.8
『恐怖分子』でも感じたが、エドワード・ヤンの感性は都市人のそれなのだと思う。『ヤンヤン~』で印象的なのは、窓ガラスに人物の顔が反射し、外の景色と重なり合うショットが度々出てくること。都会の雑踏のなかで浮遊する人間を映すようにも思える。

彼らの日常は小説のようでもなく、映画のようでもなく、わたしたちのさして面白くもないそれと同じ。父親の会社での会話のリアリティたるや。長いものに巻かれながら回っていく世界に自分も巻き取られるしかないおじさんの姿というのは、見ていて結構切ない。

皮相な会話ばかりが溢れる世界で、本当のものはいったいどこにあるのだろう。そんな思いに取り付かれるのは父親だけではなく、母親も義弟も娘も、皆同じだった。彼らは真実を求めて、宗教だったり恋だったりに縋ろうとする。そして 幼いヤンヤンは、真実を捉えるためにカメラを手にする。

ヤンヤンが大人に渡す写真には、その人の後ろ姿が写る。自分の後ろ姿は自分には見えないから、というヤンヤンの言葉は、日常を生きるなかで真実が見えなくなっていくわたしたちに刺さる。ヤンヤンの手の中にあるたくさんの真実、それを抱えたまま彼は大人になってくれるだろうか。

ヤンヤンのようにカメラを手にしたエドワード・ヤンが、この少年に託した希望を思う。ラストシーンには泣かされた。
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