恭介

エクソシスト/ディレクターズ・カット版の恭介のレビュー・感想・評価

4.3
先月、本作の監督
ウィリアム・フリードキン監督が
旅立たれた。

70年代、それまでの煌びやかで
豪華絢爛で華やかな世界という枠組みが
崩壊した映画産業の転換期。

リアリティを持って人間の持つ善悪の
二面性を観客に容赦なく突きつけてくる
作風で観るものを惹きつけてくれた
フリードキン監督。

時として映画の内容以上に演出方法が
容赦なかったフリードキン監督。

フレンチ・コネクション
エクソシスト
恐怖の報酬

特にこの70年代に発表された3作は
これからも人々を魅了し続け
語り継がれる作品だと思います。

ありがとうございます
フリードキン監督。合掌

ネタバレあり!








てな、訳で!
哀悼を捧げるにはバッチリなタイミングで
ヴァチカンのエクソシストと同時に
午前10時の映画祭にて公開された
エクソシストディレクターズカット。

自分に「悪魔祓い」というキーワードに
つい反応してしまうDNAを埋め込んだ
のが劇場公開版のエクソシスト。

ホラー映画の枠組みに収まらない
ドラマとしても見応え抜群だった
エクソシストに約10分ほどのシーンが
新たに追加されたDカット版。
もちろんDVDにて鑑賞済みだが
スクリーンでは初体験。

いやぁ色褪せるどころか
更に魅力に磨きが掛かってる印象を
受けるほど、やはり完成度が半端ない。

追加シーンは正直あっても無くても
いいかなと思うが、初期段階の
リーガンの検査シーンやラストの
ちょっと救われた気持ちになれる
警部と神父さんのやり取りなんかは
個人的にはアリかなと思う。

ま、スパイダーウォークは・・笑
あ、あとサブリミナルのような
悪魔の顔をちょいちょい出すのも・・笑


しかし約50年前、半世紀も前の
作品だとは思えない。

神、悪魔、悪魔祓いというどこか非現実的な
世界観をリアルに感じさせ
視覚的にも精神的にも迫ってくる
演出は素晴らしいの一言。

実際、悪魔祓いのシーンはラストだけと
言っても過言ではない。

しかしその一点に集約されるまでの
過程、リーガン親娘とカラス神父の
苦悩のドラマとメリン神父の覚悟と
それぞれのドラマに意味がある。

精神医学から神父の道に入ったカラスは
最初から悪魔祓いには懐疑的なのも
面白い。ヴァチカンのエクソシストでも
言及していたが、「悪魔憑き」の
大半は精神疾患による症状、
幻覚や思い込みが多い。

荒療法として悪魔祓いの「フリ」を
して患者をその気にさせて治療する
場合もあると、医者から説明を受ける母親。


しかし愛する娘が日々、娘じゃない者に
変貌し、卑猥な言動で暴力的になる様は
到底、精神疾患などでは説明がつかない
程、醜悪で邪悪だ。

この辺りの描写は、悪魔憑きに懐疑的な
母親と観ている我々の気持ちが徐々に
そして完全にリンクしていくので
没入感が半端ない。

いや、もう、悪魔でしょこれは・・
みたいな

そしてとうとうカラスに悪魔祓いの
相談をする母親がカラスに反対された時に
放つ一言でエクソシズムとしての物語が
一気に加速していく。

「悪魔祓いの何が悪いの!!」

すがるものがなく八方塞がり
そこまで母親を追い詰める過程を
丁寧に描いてきたからこそ
物語の転換をなす重要でガツンとくる
セリフだ。

ここからカラスが直接、悪魔と対峙
していくのだが、それまでに描かれた
カラス自身の母親との関係で生まれた
聖職者としての葛藤と信仰の喪失というのが
重要になってくる構成も素晴らしい。

目の前でリーガンに科学では説明できない
現象を見せられても、まだ悪魔祓いに
踏ん切りがつかないカラスの目を覚ました
のは、リーガンのお腹に浮かぶ

「ヘルプ・ミー」の文字を見たから。

自身の母親の魂を救う事が
出来なかったカラスの後悔と
聖職者としての使命感によって
ようやくリーガンを救いたいとなるこの
流れも前半のドラマで説得力が増す。


そして登場するメリン神父。
ポスターデザインにもなっている
暗闇で街灯に照らされ、シルエットで
佇むシーンに息を呑む。

高齢で持病?もちの為、常に薬を
摂取しているメリン神父。自他共に
悪魔祓いをする体力、気力もあるのか?
と、懐疑的になりそうなキャラ設定だが

ここでも映画オープニング、イラクでの
悪魔パズズとの対決を予感させる
シーンが効いてくるニクい構成。
パズズが名指しで呼び寄せた事から
宿敵との対決という構造に俄然
燃えてくる。

他にも極力、音楽を排して
生活音や不気味な物音や呼吸音のみで
リアリティを増す演出や

ちょくちょく小出しに挿入される
特殊メイクの巨匠、ディック・スミスに
よるCGではないギミックを駆使した
ショック演出も効果絶大だ。

今の時代、これ程までに
ドラマ部分をジックリ描き
殺し方の見本市のようなショック描写が
少ないホラーは製作される事自体マレで
観客にも望まれてないかもしれない。

しかし、本作が後続の映画製作者達に
与えた影響は計り知れない。

その証拠に50年経った現在
今年の12月、日本でも新作として
本作の後日譚である

「エクソシスト 信じる者」

が公開される。
ハロウィンの監督、ホラー映画には
定評があるジェイソン・ブラムが製作。
そして本作の母親役
エレン・バースティンが同じ役で
続投と、エクソシストファン笑には
堪らない布陣だ。

50年の歳月が経っても
今尚、語り継がれる物語。

ホラーだから、グロいから、と
避けてきた未見の方には是非一度
観てほしい映画。
恭介

恭介