ニトー

月に囚われた男のニトーのレビュー・感想・評価

月に囚われた男(2009年製作の映画)
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宇宙船内部のデザインが妙にクラシックというか過去が夢見た未来的デザインでおセンチになる。

しかし月から落ちてきた男の息子が月を舞台にした映画を撮るというのがいかにも過ぎて。確かにアメリカさん的には低予算だしあの予算でここまでの仕事ができるというのは驚くべきことではありますが、しかし500万ドルが低予算扱いになりインディー映画扱いとなるというあたりが邦画がいかに金のないところでやりくりしているのかというのがわかってしまって辛い。

 

面白いのがクローンであるということに対しての葛藤が非常に弱いこと。

アイデンティティの問題よりも強い孤独が2人(一人ですけど)の間に葛藤や軋轢よりも傷を舐め合うことを優先させている。いや、というよりも、のちの展開を見るに最初から予感としてサムの中にあったのかもしれない。

それが顕著なのは事故ったサムの体調の悪化に関して異様なほど二人が言及しないこと。どう見たっておかしいのに、意地でも(そう、自然に振舞っているからこそかえって不自然に見える)触れないのは、直感的に分かっているからだ。

劇中で(まあテレビで見たのでカットされているのかもしれませんが)3年の労働期間について明確に言及されることはないけれど、あれはどう考えたってクローンの寿命であり、期間終了が迫ったことで事故ったサムの身体が崩壊を始めたことが読み取れる。それを観客は察し、そしてもちろんサムたちも明言はしないけれど気づいているはずなのです。

だから、意地でも二人が体調に触れない。

しょーもない現実逃避ではある。気がついたら歯に穴があいていて虫歯と分かっていながら歯医者に行かないガキと同程度の自己欺瞞でしかない。が、それは途方もない切実さを帯びている。

観客は明らかに欺瞞だと気づいているし、それはすなわち当人たちが誰よりも自己欺瞞でしかないことを分かっているということに他ならないのだから。

分かっていながらもどうすることもできない。

美術は80年代だけど、もっとこうポストインダストリーというか「ガタカ」的な命題というか。

ずっと同じ調子のBGMが流れていたと思えばクローンの眠る部屋のシーンでバックに流れる音楽がオルゴールの子守唄じみているのとか嫌な感じがしていいですね。

んで最後の方にちょっと転調するのとかも。

 

最後の最後に至ってなお部屋の向こう側で背景と化した有象無象の他者しか存在しない「HELLO WORLD」に足りなかった第三者を、この映画は第三者の不在を描くことで逆説的に描けているというのも面白い。

 
ラストのあの音声はまあ、ちょっと蛇足だと思いますけど。

にしてもサム・ロックウェル、この後に「アイアンマン2」て差がすごい。「ギャラクシークエスト」あたりから知った口でライトな空気を纏いやすい(ヒューグラント的な)俳優かと思えばこういうのや「スリービルボード」のあの警官役だったりで幅広いですな。
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