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スカーフェイスのHKのレビュー・感想・評価

スカーフェイス(1983年製作の映画)
4.9
ブライアン・デ・パルマ監督によるハワード・ホークスにより制作された「暗黒街の顔役」のリブート作品。主演のトニー・モンタナを演じるのはアル・パチーノ

皆さん、お久しぶりです。リアルが忙しかったので、しばらくかけませんでした。これからなんとか書けるように精進したいと思います。

人生には少なくとも様々な困難が付きまとう。政治的背景や当時の情勢などもあるが、ここ日本において”難民”という言葉がどれほど毛嫌われているかを考えると、アメリカという人種の坩堝に様々な国から移民が来ることはそれはすなわちアメリカ側にとっては何一つ利益はないのだが、移民側にとっては新天地で人生を逆転させる千載一遇のチャンスなのである。

このトニー・モンタナも当時のカストロ政権下のもと社会主義の傾向にあったキューバから”自由”を求めてやってきた少し柄の悪いキューバ移民の一人であった。ただ彼には他の誰よりも芯の強い自分への信頼感、絶対にアメリカンドリームをつかみ取るという貪欲さがたぎっていた。

その背景にも、当時先を越してアメリカに移住していた彼の母と妹のこともある。自らの家族が移民であるがためにどれだけ肩身の狭い思いをしているかということを考えると、やはり男ならそんな家族に少しでも恩を返してやりたいという彼の裏に秘めた気持ちがさらに裏の世界をのし上がる衝動に火をつけさせていたのかもしれない。

危険な仕事を請け負い、殺されかけた経験もある彼には、最早怖いものなど何もなかった。上司フランクに消しかけられた時も運よく生き残ったトニーはついにボスを銃殺。成り上がりの人生でついに頂点に君臨した。

だがどんな人間にもいつか終わりはやってくる。栄枯盛衰というのか。トニーの性格は段々と荒れていき、妻のエルヴィラにも悪態をつき、家族や友人のマニーとの関係も険悪になっていく。全てを得たというのに、相反するように加速する孤独感。そんな気持ちを紛らわすように彼はドラッグに溺れる。

そんなトニーに大きな仕事が舞い込んでくる。麻薬取締機関の最高顧問の暗殺計画だ。しかし、最後まで自らの家族の幻影の縛りを解くことができず、暗殺者を殺害。さらに妹と関係を持っていた相棒のマニーも気が立って殺害。結婚したばかりだった妹も気が狂い。挙句ソーサに見限られ、送り込まれた殺し屋に妹も撃たれる。

酒と薬に溺れ、全てを失った男に残っていたのは、己の自尊心だけだった。己の孤独をコカインの山に撃ち捨てて、M16を片手に掲げ暗殺者どもに立ち向かうシーンは圧巻である。最後は後ろから撃たれ噴水に堕ちるまで、プライドだけで立ち続けたのであった。

監督のブライアン・デ・パルマによる360度回転、俯瞰撮影など、ヒッチコックから影響を受けた独特なけれんみ溢れる撮影方法には惹かれる。さらに殺人前の被写体の目のズームなどはアル・パチーノの野性味あふれる眼光を見事なまでに際立たせる作品となっている。

重厚な作品であるが、3時間というとても長い映画で見せ場も限られるため、軽い映画が好きな人にはきついかもしれないが、トニー・モンタナの生きざまを堪能したい人には非常にお勧めしたい。
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