けんたろう

八月の狂詩曲(ラプソディー)のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

寧ろハワイよりも長崎の方に行きたいおはなし。


山村に見ゆる日本人の原風景。然うして八十年代、九十年代の松竹映画に見らるゝ夏景色。
月や夕焼け。森や滝。和洋折衷日本家屋。祖母と孫の田舎での交流。フイルムに宿る夏模様。おゝ、ノスタルジイ……
画の構図も亦た非常に好い。月とバヽアとリチヤド・ギア。赤き障子を背にしたバヽアの嘆き。ときに叙情あり。ときに鮮烈なり。
黒澤の描く此の時代、此の土地、此の人々に、強く惹かる。其れは正に此の人々が、彼の時代、彼の土地、彼の人々を思うたやうに。

ピカを目にした烈しき記憶。記憶が築いた長崎の記念碑。因縁と偶然に依る二人の邂逅。狂詩曲にして鎮魂歌。戦後四十五年だからこそ描けた、怪奇、懐郷、懐古の穏やかで然し烈しき至高の物語り。
過去か未来か、彼れらは一体何処に向かうて走りたり。同一の道を走りし其の最後。豪雨、雷号、然しながら留まらぬ。思ひも寄らぬ大迫力の結末に、昂奮をひとつ。