よしまる

プレステージのよしまるのレビュー・感想・評価

プレステージ(2006年製作の映画)
3.8
 ノーラン監督らしく、前半は時系列をあえてごちゃ混ぜにするので、エ?エッ?ってなるけれど、30分もすればお話が始まり、取り立てて難解というほどの筋ではなかった。

 わかってしまえば何ということのないトリック。優れたマジックはpledge、turn、prestigeの3段階という下りがあるが、確認、展開まではパーフェクト、が、偉業とまでは言い難い仕掛けだったと、残念ながら言うしかない。とりあえずまさかのSF要素。デビッドボウイが出てる時点で気づけば良かったのに、テスラの装置そのものもトリックだと信じて観てしまってたので、マジもんだと分かってズッコけたよ。

 と、こんな書き方をするとdisってるとしか思われないかもしれないけれど。実は違うw

 ビギンズとダークナイトの間のクリスチャンベール、Xメン2と(ファイナルは無視して)ウルヴァリンゼロの間のヒュージャックマン。2人とも半端ない目ヂカラを持つヒーロー。特にベールは同じノーランの元、憎みも愛おしみもできない、感情移入を拒絶するというおよそヒーローとは縁遠いボーデン。一方のダントン、ジャックマンのほうは度重なる不遇に情が移りそうになりながらも狂気を帯びることでこれまた応援したい気持ちは砕かれる。
 つまり当時ヒーローを演じていた2人が、己の欲望を剥き出しに、、いや、マジシャンという仮面の下に覆い隠しながら、prestigeを達成しようと謀る。当然、それぞれの役者魂にも火がついたことだろうと思われるし、熱気は画面からも溢れている。

 考えてみれば、ピカレスクロマンとも言い切れないある意味ダークヒーロー同士の闘いを描いた映画というのは珍しくて、なんでこんな感情移入もできない酷い男たちの戦いに引きずり込まれてしまうのだろう?
 実はこれぞノーランの面白さ。自分に置き換えたくない、友達にも欲しくない、そんなヒーローやヴィランを描くことで人間の持つ闇や深みをあぶり出している。だから、自分はそんなことしないと思っているはずのことをしてしまう可能性にゾッとするのだ。
 そこから突っ込んで、自分以外の自分との対峙についても都合よく2つのケースがあるわけなのだから、もう少し答えを明示して欲しかったと思う。それがトリックであったからこそ描ききれないという難しい部分ではあるけれど、そこはノーラン、そこかしこにヒントを散りばめておいて後は考えてくださいと。見事ヤられるww

 余談ながら、いつものイギリス出身俳優たちがノーラン作品の実にいいスパイスとなっている。マイケルケイン、レベッカホール、ボウイとアンディサーキスのコンビ。
 さらに撮影、音楽、編集、美術と毎度の鉄壁の布陣で固めたノーラン節が、いよいよ次作ダークナイトで頂点を極める。
 そのエチュードとしてもぜひとも押さえておきたい映画と言えるだろう。