ひろ

エレファント・マンのひろのレビュー・感想・評価

エレファント・マン(1980年製作の映画)
4.2
19世紀のイギリスで実在した青年ジョゼフ・メリックの半生を、デヴィッド・リンチ監督・脚本で映画化した1980年のアメリカ・イギリス合作映画

鬼才という言葉はデヴィッド・リンチのためにあると言っても過言ではない。難解映画の教祖と言ってもいいが、この作品は全世界で大ヒットした監督の出世作である。自主製作映画「イレイザーヘッド」の次に撮った2作目で、こんな傑作を作っちゃうなんてすごすぎる。

先天性の奇形によって人間らしい暮らしとは無縁だった“エレファント・マン”ことジョン・メリック。異形の容姿と純粋な心をあわせ持つ彼を通して、人間の本質を描いた作品。ジョン・メリックという人物は実在した人で、実際の写真を観たけど、映画の特殊メイクとそっくりだった。

この映画は観る人を試す映画だ。多くの人は普通とは違った人を見ると、奇異の目で見るか、同情の目で見るかだと思う。でもそれはどちらも相手を傷つける行為だ。偏見というものは生きていくうちに塗り固められていく。“エレファント・マン”をジョン・メリックとして見ることができるのか?それができない自分の弱さに打ちのめされる人は多いはずだ。

ジョン・メリックを演じたジョン・ハート。英国アカデミー賞で主演男優賞を受賞した演技は必見。特殊メイクで誰だか分からないけど、愛すら知らずに生きてきたジョン・メリックの心の揺れが伝わってくる演技だった。

トリーブスを演じたアンソニー・ホプキンスは、メリックを引き立てる役だからそんなに目立ってないけど、自分の愚かさに葛藤する演技はさすがだった。この時すでに40代だけど、「羊たちの沈黙」はこの10年後だというのが驚きだ。

モノクロの映像がより“エレファント・マン”の心を鮮明に映し出している。デヴィッド・リンチらしい映像もあるけど、他の作品に比べたら難解じゃないし、感動的な物語だと思う。ただ、デヴィッド・リンチはきわものが好きだから、感動させようという魂胆があったのかは謎だけどね。この監督は何を考えているのかさっぱり解らないから、鬼才と呼ばれ続けるのだ。
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