ろ

暗殺の森のろのレビュー・感想・評価

暗殺の森(1970年製作の映画)
4.6


「僕は、正常な人間になりたい」


みんなと同じように、家庭をもつこと。
みんなと同じように、ファシストになること。
「正常」になるためだったら、僕はなんだってする。


物語の主人公マルチェロは少年期に体験したある出来事をきっかけに「自分は正常ではない」と思うようになる。
というふうに進むのだけれど、
とても違和感があった。
というのはわたしの目には、マルチェロは「正常ではない自分」を「特別」だと(誇りに)思っている、ように映ったから。
過去をトラウマのように抱えながら、「つらい過去を背負った自分」というイメージを、とても(宝のように)大切にしているように見える。


懺悔をきいた神父は、マルチェロの過去におののく。
しかし、平凡だと思っていた(見下していた)婚約者もまた、マルチェロと同じような辛い体験をしていた。
彼女の話に耳を傾けながら、なんともいえない表情を浮かべる。


わたしがすきなシーン、婚約祝賀会。
出席者のなかでひとりだけ目が見えるマルチェロ。
派手にガラスを割り、喧嘩をはじめそうになる盲目の人々。
友人はささやく「君だけ目が見えるから、みんな神経過敏になってるんだ」

みんなっていうのは、ふつうっていうのは、正常っていうのは、いったい、どの基準でいっているんだろう。その境界線はなんだろう。
そんな疑問を、わたしはこの祝賀会の場面にぶつけたくなってしまった。



ムッソリーニはいなくなった、彼の像は引きずられていった。
僕はまた、みんなと同じように、ファシストを糾弾した。









( ..)φ

平凡を求めて、たいして好きでもない女性と結婚する。
みんなと一緒 を求めて、恩師を売る。
暗殺命令を実行することもできない、助けを求める彼女をただ見つめることしかできない。
そんな(ちっぽけな)マルチェロを、大胆な構図でバッサバッサと切っていくカメラ。

わたしがこんなにモヤモヤしてイライラするのはきっと、わたしの心の中にもマルチェロがいるからだ。
ろ