ひでやん

ダンサー・イン・ザ・ダークのひでやんのレビュー・感想・評価

4.1
デンマークの奇才、ラース・フォン・トリアーが、主人公の空想をミュージカル風に描いた後味の悪い鬱映画。

暗くぼやけた盲目の世界をオープニングで映し出し、視力を失いつつあるセルマの日常にカメラは近付く。音楽のない手持ちカメラの映像はドキュメンタリー風で、リアルな描写に引き込まれた。

工場のプレス機にヒヤヒヤしながら、ひたむきに働く彼女の姿を見守っていたが、「沈黙の約束」が頭にこびりついて嫌な予感しかしなかった。

徹底的に辛い現実を突きつけられ、逃げ場を失った鑑賞者に安らぎの時が流れる。日常にある音が引き金となって訪れるミュージカルだが、歌とダンスの幸福感はディズニー映画のそれとは違う。

楽しいから踊るのではなく、辛いから頭で踊るセルマ。そんな現実逃避の空想世界は儚げでどこか物寂しい。セルマを演じるビョークの歌声は込み上げる感情を絞り出すようで、力強さと弱さが入り交じった声だった。特に列車のシーンが印象的で、胸にグッときた。

危なっかしいセルマの苦労を散々見守った後、奈落の底へと突き落とすトリアー。「沈黙」に真実があり約束がある。救済の拒否に愛があり、107歩先に絶望がある。

空想にふけるセルマの視点で見るとラストだけ救いがあるが、「その瞬間」はキツいわ…凹むって。
ひでやん

ひでやん