シズヲ

涙を、獅子のたて髪にのシズヲのレビュー・感想・評価

涙を、獅子のたて髪に(1962年製作の映画)
3.6
ヤクザの手先として矢面に立ち、労働者達からは憎まれる。ヤクザからは犬同然に扱われ、尊厳さえも飼い慣らされる。弱者の側にも強者の側にも彼の居場所は無い。孤独感によって忍び寄ってきた相手との間にも結局は根本的な上下関係が介在する。どっち付かずの無知な負け犬ほど惨めなものはない。それでも愛してくれる人が居てくれたのは唯一残された救いなんだなあ。港湾を舞台にした労働者の反抗やギャングに支配される主人公という構図など、あらすじ的には大分『波止場』っぽい松竹ヌーヴェルヴァーグ。

カットを切り替えながら港を淡々と映し出す冒頭のシークエンスを始めとし、要所要所で映し出される撮影の洗練ぶりが印象的。豪雨の中での一連のシーンや影の中で泣き崩れる描写など、仄暗い陰影や洗練された構図によって醸し出される閉塞感が味わい深い。真っ白な大空をバックにした構図の画もそうだけど、モノクロの映像というものは時に打ち拉がれるような退廃性を演出してくれるから良い。悲壮な音楽もまた物悲しさを際立たせている。

演技で魅せる藤木孝の存在感も良い。基本的にはチンピラに過ぎないのに、時折ジェームズ・ディーンを彷彿とさせる憂いや悲哀を顔に湛えるのがとても好き。泣き叫び震える姿なんかもジミーに勝るとも劣らぬ悲痛ぶり。ブルジョワ達の前で『地獄の恋人』を熱唱するシーン、サブの慟哭と惨めな立場を無慈悲に炙り出しており秀逸。あと加賀まりこはやっぱり可愛いし、デビュー作ながらしっかり役柄を演じ切ってるけど、『月曜日のユカ』での魅力と比べると普通でちょっと物足りない。

本筋とは関係ないけど、犬を容赦なくぶん投げるシーンがロマンスの導入部としてナチュラルに描かれたのは正直たまげた。
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