Melko

きっと ここが帰る場所のMelkoのレビュー・感想・評価

きっと ここが帰る場所(2011年製作の映画)
3.8
同じところをグルグル回っていた”大人子ども”が、ほんの少し前に進む話。

不器用な人は、見ててイタい。悲しくなるほどに。
かなり良い歳した大人なのに、浮世離れした喋り方とファッションがやめられないシャイアン。心の扉をほんの少しだけ開けた状態の彼は、人付き合いもほんの少し。大人になる途中の子どもが成長を止めたような、ほんの少し地面から浮いてるような人。歯に衣着せぬズバッとした言葉を、ほんわかボイスで他人に浴びせかける。年齢に合わず時代遅れのファッション。行動の奇抜も相まって、人に笑われることもしばしば。典型的な、”イタイ人”。それでも、彼の周りには、温かい人がいる。カラッとした性格で肉体労働も厭わない妻、娘ほど年下の女友達、その女友達に恋する天然男子、ゲスい男友達。
豪邸に住み、働かず引きこもって株ばかりやってる彼が、そんなイタイ彼が、亡き父の遺志を完遂するため、旅に出る…。

ショーンペン、本当にすごい。なんだろう、このシャイアンから溢れる魅力は。
頭ボサボサ、ゴスメイクで見た目がまんまthe Cureなのに、老人用のキャリーバッグをひいてヨタヨタ歩くような、隣を歩きたくない系のめっちゃイタイ大人なんだけど、老眼鏡をかけて新聞読む姿はとってもチャーミング。女友達と、彼女に惚れた男の恋路の不器用なアシストなんて、見ててほっこり。自分の歌のせいで若者が自殺したり、自己嫌悪にまみれて生きてきたのだろうけど、死にたい思いと生きる意思を繋ぎ止めるのは、周りの人間たち。
自分を慈しんでくれる人たちに囲まれてるからこそ、コミュ障のシャイアンはただ”イタイ”だけではない、愛情や優しさに溢れた人間なのだということが伝わってくる。でもだからこそ、そんな周りの人たちから離れて、たった一人でアメリカを旅する後半。そこに明るさはなく、暗さと湿っぽさが漂う。美しい景色と反比例するように。
だが確実にその旅は、シャイアンを成長させる。止まっていた、心の成長。
不器用でも、流されるのではなく、意思を持って地を踏みしめ生きること。
ラスト父の宿敵との対峙では、シャイアンなりのケジメの付け方で、父の人生と自分の人生に区切りを付ける。エピソードやセリフが一切描写されなくても、「子を愛さない父親はいない」と時を経て直感的に感じ取れたシャイアンの感性は、きっと間違ってない。

というか、「女心を掴むコツは、時間をかけること。そばにいて一緒の時間を過ごすこと。大事なのは、安心してもらうこと。」を恋愛のアドバイスとして言える時点で、全然イタイ大人なんかじゃないわ、シャイアン。すごく素敵よ。
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