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犬神家の一族の消費者のレビュー・感想・評価

犬神家の一族(2006年製作の映画)
3.7
・あらすじ
舞台は昭和22年の信州、那須市
街を牛耳る財閥一家、犬神家の当主である犬神佐兵衛が危篤となり一族は屋敷で一堂に会していた
遺産や事業の相続権を巡り一家は佐兵衛に遺言を問いかけるが管理者である弁護士の古館恭三によれば血縁者が全員揃わなければ公開しないという取り決めなのだという
そうして7ヶ月もの間、屋敷に残る事を皆が余儀なくされてしまう
ちょうど時が経ったその頃、私立探偵の金田一耕助が街へとやってくる
早速、金田一が宿を取ると女中のはるに窓から姿の見える女性について話を聞かされる
美しい容姿のその女性は野々宮珠世
血筋は違うが犬神家の元に住む亡くなった当主、佐兵衛の恩人の血筋らしい
彼女の美貌を一目見ようと金田一が双眼鏡を覗き込むと珠世の乗っているボートが転覆しかけている事に気がつく
咄嗟に彼女を助けに向かう金田一
どうやらボートの船底には穴が開けられていたようだ
無事に珠世を救助し、ホテルへと金田一が戻るとそこには彼に調査を依頼した弁護士事務所の助手、吐血し倒れた若林の遺体がそこにはあった
助手の死を受けて重要参考人として拘留されていた金田一の元にやってくる弁護士、古館
どうやら彼は若林の依頼を知らなかった様である
金田一が古館に明かした若林の手紙には犬神家に容易ならぬ血みどろな事態が起こる、という言葉が記されていた
古館は若林の行動に心当たりがある
金庫に保管していた遺言状に読まれた形跡があったのだ
その後、若林の死は毒殺による物と判明
古館は若林の代理として改めて金田一に調査依頼をする事に
古館の言う所では遺言状の公開には9人の血縁者に加えて珠世も出席するとの事
しかし半月前、復員の報せがあった長女である松子の息子、佐清と彼を迎えにいった松子自身が戻らぬ為に会合は実現していない
だがその晩、松子が佐清を連れて屋敷へと戻る
そしてそれぞれ思惑を隠しながら待ち続けた一族の元に現れた佐清は頭巾で顔を隠した異様な姿
本人である確信の持てない松子以外の面々は佐清に頭巾を脱ぐ様に求めると露わにされたのは真っ白な覆面
更にそれを脱ぐと顔の上半分は戦場の怪我で黒く焼け爛れたおぞましい素顔が…
そんな状況下でやっと公開される遺言状
その内容は一族に大きな衝撃を与える
1. 全財産と全事業の相続権を意味する3種の家宝、斧・琴・菊(よきこときく)は全て血筋ではないはずの珠世に与える
2. 珠世は3姉妹それぞれの息子である3人の孫から配偶者を選ばず他の者を配偶者に選んだ場合、全ての相続権を失う
3. 孫息子達が珠世との結婚を拒むか誰かが死んだ場合、3人は全ての相続権を失うがその時は珠世は誰と結婚しようと自由になる物とする
4. 珠世が相続権を失った場合、孫息子達がそれぞれ事業と遺産の1/5ずつを継承し、残り2/5は青沼静馬(佐兵衛と彼の工場の女工であった菊乃の息子)が相続する
5. 孫息子3人と珠世の4人が死んだ場合は全て静馬が相続する
正統な血筋ではない者が優先される内容に一族は皆、激怒
やがて佐武が何者かに殺害された事で状況はより複雑な物となっていき…

・感想
76年版の「犬神家の一族」から主人公、金田一耕助を演じる石坂浩二を始めとして大山神官役の大滝秀治、原作映画では捜査主任だったが今作では署長となっている等々力役の加藤武などが、監督も同様に原作と同じく市川崑が続投しているリメイク版の同名サスペンス作品

テーマ曲や編集スタイル、細かな台詞や描写などほぼ全てが原作を踏襲した物となっている為、既にそちらを鑑賞している身としては実質の再鑑賞に近く一族の関係性などをよりしっかりと追う事が出来て楽しみやすかった

一方で技術の進歩によって映像のスムーズさが増し、不穏な空気も原作よりも強くなっていた印象なのも良かった
しかし本作を象徴する生首菊人形のゴア描写は逆に映像加工によってか作り物感が増してしまっておりそこは残念

他に惜しかった点としては登場人物それぞれの人物像や醸し出す空気感がキャスティングのせいでやや安っぽく感じられてしまった事がある
中でも気になったのは竹子を演じる松坂慶子、那須ホテルの主人を演じる三谷幸喜、那須ホテルの女中のはるを演じる深田恭子の3人
松坂慶子は息子、佐武を失った悲しみから取り乱す芝居がわざとらしい
三谷幸喜はそもそも役者ではないので仕方ない部分もあるけど普通に演技が下手
深田恭子は普段通りのブリブリした喋りで演じてしまっているせいで原作の様なチャキチャキ感や昭和らしさが消え失せてしまっていた(「リング2」での芝居を見る限り普通に喋る事が可能なはずなのに…)
どの人物も事件や話への関わりが薄いのがせめてもの救いだったかな…

総合的には作品として悪くはなかったし、リメイクだからといって必ずしも改変がされるべきとは思わない
ただあまりにも原作を踏襲し過ぎていてアップデートされた部分も特に見られなかった事からリメイクの意義が果たしてあったんだろうか…とはどうしても思ってしまった
古い映画が苦手な人には今作の方が観やすいかもしれないけど原作が好きな人間からすると尚のことそう感じる
1度の原作の鑑賞で理解しづらかった部分を再確認出来た、という点や年老いてもなお役にハマっていた石坂浩二の芝居が見られた以外にはそこまで観た意味無かったかもなぁ…
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