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失われた週末のOtoのレビュー・感想・評価

失われた週末(1945年製作の映画)
3.4
アル中の作家が主人公の企画を書いてるから勉強。観てきたワイルダー作品の中では粗さが目立ったけど学びは多くて観てよかった。。

好き 
・ファーストカットで葛藤のモチーフ(吊られた酒ビン)を見せる、ラストカットと対応
・ファーストシーンでメインキャラが全員集合、主人公の職業や欠点・葛藤・関係性を全部見せる
・12分でお酒飲んできっかけを作る
・応援できる憎めなさ(酒を隠す、すぐバレる嘘)。次第に罪が大きくなるけど罪悪感は変わらない
・応援してくれる彼女とやめとけと言う兄(始めは応援)、悪役は酒なんだろう
・タイプライターとか彼女のコートを売ってしまうわかりやすいどん底の表現(ギターを売る、メルカリに出す)
・作家というキャリアの象徴がタイプライター、そこがサブプロットの彼女と関わる(捧ぐ=SAVETHECAT):エンドロールとかに譜面を生かして使える
・ピストルの使い方、強盗に入った時にピストルを見せてないけど死の香りとして伏線回収
・人誑し、落ちていくほど周りは心配する、それを利用して悪用する
・水滴の輪っか(悪意の輪)でアルコール量を象徴、饒舌になってテンションが変わる芝居の見せ所。「そばに置いとくだけで安心」
・幻覚は飲んだことがスイッチとなって、音によって認識し、目で確信する
・ベッドの下から出てくる酒ビンの緊張感、照明の上に乗せるワインが見える
・両親への挨拶に緊張するなどお酒を飲む状況を自然に作っている
・断酒の瞬間、音楽を盛り上げて飲んでしまうというサスペンスに抗って、酒をやめる
・一人で再起するのも彼女の存在がいた方がいい?作家のドンというもう一人を救おうとしている
・二日酔いは現実と幻覚が融合していく感じが面白い、入院は普通の病棟じゃなく明らかにヤバい人に囲まれてしまう(自分より下がいる)
・アルコールを設定することで魔法がなくなる

好きじゃない 
・落ちていく一方で浮き沈みがもっと見たい。お楽しみやミッドポイントなど見せかけの幸せがなく、ボトムが非常に長いので、クライマックスがとってつけたような印象を受ける
・盗んだりとか小説を書き始めたりとか、一時的に上手くいって、少し時間を置いてから破滅する方が面白い
・おそらく序盤が重い、回想など状況説明が長い。そこでもっと展開ができたし、彼女との会話で全てを言語的に説明してしまうのが勿体無い(映像で描写すればいいか彼女に言わせる)
・彼女が聖人すぎて人間味がない、なぜ一緒にいるのかわからない。作品に惚れてるわけでもない(プロデューサーが彼女で離れられない、売れっ子ライバルが悪役?どちらも奪おうとする)=彼にいい仕事をもらいたい彼女、どんな仕事でもやると言うけど彼女は振らない、生活は面倒を彼女が見ると思ってることで対立
・頑張ってないのにうまくいってる、あまりにも人でなしで共感できない。
・グロリアをサブプロットとして活かせる、あんなに尺を使ったのにお金を借りるだけの存在。女性の描き方が甘い
・彼女が問題を解決してはいけない、主人公自身が内面と向き合う必要がある(彼女が才能に惚れて事務所を立ち上げたなどのバックストーリー

1.Op(1):NYのアパートの窓から吊り下げられた酒ビン。酒をやめられないため兄に療養で田舎に連れて行かれる予定。
2.Theme(5):「書く気になったのか」「何か魂胆があるな」酒vs才能
3.SetUp(1-10):兄と彼女に酒を見つかる。欠点:アル中、嘘つき、売れない、盗み癖、自己中心、衝動的。モチーフ:タイプ、酒。
4.Catalyst(12):手伝いの給料を盗んでバーで飲酒。
5.Debate(12-25):田舎に酒を持ち込む計画をするなど異常な饒舌。兄には見捨てられ、旅へ行かないことに。
6.Two(25-30):バーの娘と意気投合して約束。小説を書き始めたことがアル中のきっかけだったと語る。
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7.BStory(30):(回想)観劇で彼女と出会う。
8.Promise(30-55):(回想)アル中と隠して彼女と親しくなるが、両親に会う緊張で飲酒。兄の助けも断って自ら告白してしまう。挑発されて小説を書き始めるが書けない。
9.Midpoint(55):レストランで財布を盗むことに成功。
10.BadGuys(55-65):すぐにバレて隠していた酒を家で飲む。タイプを質屋に持ち込むがまともに歩けない。
11.Lost(75):バーの娘から借金するが階段から転落。
12.Dark(75-85):精神病棟で幻覚に襲われる患者を見て脱走。
13.Three(85):彼女が待つ中、店から酒を盗む。
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14.Finale(85-110):ついに幻覚を見るが彼女が助けに来る。彼女の服を売り自殺を試みるがタイプが戻ってきて、自らの悩みを作品にすることで前向きになる。
15.Fin(110):小説の内容として回想される酒。都会の乾きと世間の目から逃れて酒を求める男を客観視。



解説
・ヘイズコード、アル中が題材なので酒業界から反対が来た。
・3日間だけのサバイバル物語、中毒映画の古典、『シェイム』『ドンジョン』『リービングラスベガス』の先駆者。
・主演俳優は『X線の眼を持つ男』などでも似たキャラ。初めは透視ができてラッキーと思ってたらそのうち人の心も見えてきて現実がわからなくなる。(観たい)
・編集者として独立する女性、女優はレーガンの最初の奥さん。(その割に編集者の設定生きていない)
・酒も金もないけど手に入れたい。ヒッチコック的、殺人の気持ちになって隠蔽する不道徳なサスペンス。
・連続飲酒とせん妄、その中で回想形式でなぜそうなったか次第にわかっていく複雑な構造。
・ワイルダーは40になる前にこの作品で地位を確立。駅の売店で読んだ原作がきっかけ、パラマウントはこんなの娯楽にならないと反対、俳優も見つからないけど、キャリアを殺すか不安視されたが男優賞。
・音楽担当のローザは壮大な作曲が多いがテルミンを使用。トワイライトゾーンなどSFブーム継承。
・光と影はフィルムノワール手法、心の闇と恐怖。フランスからアメリカに逆輸入。戦争で傷ついた人々が見た、暗いハリウッド時代。
・『ジェイコブスラダー』の元ネタ、地獄巡り。
・ライウイスキーしか飲まない主人公。ありつけたときの酒の美味しさが伝わる。(ちょっと味見したいな)

・この映画の原作小説を書くまでの物語、ややこしい構造。原作者はショックを受けた、実体験であったため。この後ベストセラーになって成功したが、アル中から逃れられずドラッグにも溺れた。同性愛への苦しみが本当の問題だったため。普遍性がないとかヘイズコードで映画では外されてしまい、才能が認められないという普遍的な一般化を行った。
・ヒットの要因は戦争のトラウマで精神障害が多かったため自分の心の傷を重ねられた。アル中を通して普遍的な闇を描く。(時代を反映した問題・テーマ設定)
・オペラの乾杯でクロークの酒を連想する、何を見ても結びつける。
・3つの玉は質屋のマーク。ヨムキプールでユダヤ人は店を閉めてる、厳しいと水も飲まない。監督の経歴が生きてる。
・せん妄の蝙蝠がちゃっちい。魔神ドラキュラ。『仁義』で苦しむトラウマ、急に治ったり、小人が話しかけてきたり。リンチやタルコフスキーも描く。
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