けんたろう

去年マリエンバートでのけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

去年マリエンバートで(1961年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

美に酔狂うおはなし。


YEBISU GARDEN CINEMAでのゴーモン特集の間に観た予告に心を奪われてからおよそ2ヶ月。遂にやってきた"映画史上最も難解な映画"と称される今作。当然気合い十分。意識という意識すべてをスクリーンに向けて鑑賞してきた。
…しかし冒頭、何度も繰り返される独白は、僕の眼球と脳味噌とを活性化させるだけで、全くもって理解不能。(今考えればアレはこの映像宮殿に入り込む難しさ、恐ろしさを表現していたように思える。)
とはいえ、全編に渡って映される豪華なセットや整然と作られし庭園、そしてそこに佇む人々の立ち姿や立ち位置などが丹精に生み出す、完成されきった空間には魅了され尽くした。

さて、色々と思考を巡らせるに、今作の舞台はまるでコースに沿ってセットの中を回る遊園地のアトラクションのようである。乗り物が進むと、決められた場所で、決められた人物が、決められた台詞を吐き、決められた動きをする。人間のようで人間ではない作り込まれた奇妙なカラクリに思えるのだ。
つまり今作は、その一部に取り込まれた女Aを男Xが連れ戻しに来た物語と考えられる。
そうしてその考えは、
・毎年Xという男が女を連れ戻しに、完成されたカラクリにエラーを引き起こしにやって来る。
・アトラクションはXを排除するためにアップデートを繰り返し、人物の記憶にはズレが生じた。
・Aがカラクリとして決められた場所で決められた関係しか持たなかったため、この映画の登場人物は3人だけに絞られた。
などと発展する。僕はそれらが合点のいく事にひとり優越感を持ちながら観ていた。

…パンフレットを読んだ。

「理解すること自体が違う」

うぇぇぇぇぇぇぇい恥ずかしぃぃぃぃぃぃ😖😖😖

その後もパンフレットは、先ほどまでひとり自慢げに鼻を高くして鑑賞していた僕に、極めて残酷な見解を続ける。
「描かれていた時間は未来・現在・過去の3つだけ」「時間軸を境目なく動くから難解」「過去はMの回想ではなくAの想像の可能性がある」
なるほど言われてみれば確かにそうだ。でもそれを含め、改めて自分なりに考えると、アレはやっぱり時間軸そのものが動き出しているような感覚だったし、どうしても制作者の意図とは全く異なるものが見えてしまう。だからパンフレットはもう無視することにした。

ところで、こうして色々考えていると、なんだかもう一度観たい、もう一度あの回廊を渡りたいという気持ちが湧いてくる。あれま。もしかすると、Aとはこうしてあの迷宮に惹かれている僕の事だったのではあるまいか。だとすれば、またあの回廊を渡る必要は特別ない。既にあの宮殿、いやこの宮殿に閉じ込められて、頭を抱えながら彼方此方を彷徨っているのだから。


【2020.7.31 早稲田松竹】
以前の僕のレビューは見当違いだった。とは言っても、なるほど新たな解釈が生まれはしたが、やはり謎は深まるばかりであった。

要するにこういう事だろう。過去に囚われた男の悲劇、いや過去に囚われた女の悲劇、いや過去に囚われた男の悲劇、いや…なんなんだこれは。
不倫、銃殺、駆け落ちという一本の時間軸に収まりそうな出来事が全く収まっておらず、結局今回も一体何が過去で、何が現在で、何が未来なのかが判らなくなってしまった。過去と現在と未来とが溶け合う感覚は又もや消えない。
然し其れこそ正に映画にしかなせぬ業のように思う。やはり素晴らしい映画だ。

「去年マリエンバートで。」
僕は今年もマリエンバートで迷子である。