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ドント・ルック・バックのsoのレビュー・感想・評価

ドント・ルック・バック(1967年製作の映画)
3.5
ボブ・ディラン1964年イギリスツアーの記録映画。
演奏シーンよりもホテルや楽屋での会話がひたすら続く、音楽ドキュメンタリーとして尖りまくってる本作。ディランを聴き始めた10代の頃に本作を初めて観たときには、その難解な歌詞やサングラスに隠された素顔と同じように捉えどころのない彼の言動に戸惑い、もやもやし通しだった。

改めて観ると、若い女の子のファンに対しても、自分の音楽に興味のない記者に対しても、「物事は言葉で簡単に語れるものではない」という己の大原則で彼らの質問に慎重に言葉を返すディランがとても印象的だった。彼の明晰な言葉づかいを見ていると、ロック史においてこんなにも理知的なミュージシャンは他にいないのではないかと思ってしまう。しかもこの時ディランはまだ23歳。

あるドキュメンタリー映画で、「ディランはフォークムーブメントを利用していただけだ」と指摘している人がいたけれど、本作ではフォークから離れようとするディランの姿が映されていて、面白い。
彼の音楽を「フォーク」の枠にはめたがる記者が山ほど登場するが、中でもひどい記者は「説法」という言葉でそのメッセージ性・社会性だけを勝手に強調する。
そんな、まだフォークに安住していたい世の中の2歩も3歩も先を見ていたディランは、ホテルの同室でジョーンバエズがフォークソングを歌う傍で彼女に背を向けてタイプライターで黙々と何かを打っていた。
ドント・ルック・バック。この時期彼の中でふつふつとこみ上げていたものが後に「追憶のハイウェイ61」として結晶するのかと思うと、感慨深いものがある。

空港で男に「なぜ売れたと思うか?」ときかれ、「自分はいつも同じことをやっているだけ」と笑って答えるディラン。
お祭り騒ぎの渦中にいながらも静かに自分の音楽、自分の詩だけを凝視し続けたディラン。
昔はわからなかったその偉大さが、今になってようやくわかった。
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