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ウェンディ&ルーシーのdecapのレビュー・感想・評価

ウェンディ&ルーシー(2008年製作の映画)
4.5
職を求めて車で旅をする主人公の孤独と決意。
冒頭の愛犬と戯れながら歩く横移動のロングショットから素晴らしい。ほのぼのとしつつも、流れるハミングを聴いていると孤独感と不穏さをひしひしと感じる。
リーマンショックが始まった2008年秋を舞台に、社会的不安が盛り込まれるが、描かれていることは普遍的な孤独とその救済の可能性。仕事もお金もないままに辛うじての「家族」と「家」を同時に失い、途方に暮れつつも、それらにすがるべくできる限りを模索する主人公。正義感が他者を抑圧する様や、お金も時間も体力も確かに無くなっていく中で、彼女にかかわる心優しい警備員や不穏な通りすがりが妙に印象的。

主人公の視点に徹底的に寄り添うからこそ、終始おろおろと戸惑いながら生きる姿には自然と涙が出た。ミシェル・ウィリアムズでしか成しえない名演技。そして素朴ながらも静かで洗練されたフェンス越しのシーンで、この映画が自分にとって特別なものになると確信した。
最低限の持ち物でやりくりする中、カバンから取り出したモノの大きさと、その後のやり取りに、信頼関係の大きさ故の言語を介さない意思疎通が透けて見え、そしてそこには言葉が通じないからこその切なさも同居する。

社会の辛辣さを見せつける映画ながら、観終わった後には不思議と心が落ち着き、奇妙な居心地の良さに包まれている気がする傑作。厳しい現実も悲しい決断も全部ひっくるめて、それぞれの人生を肯定する優しいこの視点には誰も敵わないのではなかろうか。

ちなみにこの本人役(本犬役?)のルーシーは『オールド・ジョイ』のルーシー(こちらも本犬役)なのかな。
ケリー・ライカート監督の最新作『ファースト・カウ』の日本公開が先日決まったそうで待ち遠しい
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