decap

サマーフィルムにのってのdecapのレビュー・感想・評価

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.4
ぼんくら時代劇オタクの高校生が、周囲を巻き込み自分の撮りたい映画を撮る、という話。
まず脚本が良い。映画という過去を観て今を楽しむ表現が時代劇を扱うことで強調され、未来からの使者というSF要素でその軸が未来へもつながる。薄っぺらい(と感じる)恋愛劇が席巻する劇中は日本映画界のメタファーであり、未来の映画体験として「ファスト映画」を取り上げてそれをぶん殴り、映画体験を守ろうと奮闘する。

映画を撮ることで傍観者から当事者へと意識が変わり、「好きな事」を各人が捉え直すプロセスが丁寧で、全キャラクターがそれぞれの人生を歩む多幸感にもつながっていて好感。
そして映画製作を丁寧に追いながらの終盤の編集シーンがとんでもなく素晴らしい。ここだけでももう一度観たいほど意味わかんないくらいなぜか感動した。

映画のラスト、劇中映画のラストカットに覚悟できずにもがきながら表現を続ける主人公、それにいち早く反応して立ち上がるのが、初めから覚悟を持っていたあの人っていうのがまた燃える。本気で映画を想い、本気で取り組んでいたのは彼女だけではなかったのだ。そして劇中映画とこの映画自体が同時にクライマックスを迎える演出も素晴らしかった。

キャストも皆素敵なのだが、特に『佐々木、イン、マイマイン』の河合優実の表情での演技がすごかった。佇まいや視線や表情だけで「好きって言葉を使わないでいかに好きを伝えるかが映画」というくだりを体現している。(彼女が本当に好きなのは…という表現のスマートさ!)。

監督・脚本はラジオ愛ドラマ『お耳に合いましたら』の松本壮史。脚本はロロの三浦直之。主演は全身で演技をする伊藤万理華。

タイトルバックの音楽もジョン・ブライオンの『レディバード』っぽくて好き
decap

decap