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オールド・ジョイのdecapのレビュー・感想・評価

オールド・ジョイ(2006年製作の映画)
4.7
かつての友人であった、もうすぐ父になる男と、いまだ自由を謳歌する男が、都会の喧騒から離れ、そして帰る(べき)ところへ戻るだけの話。
かつての友情がどこかぎこちなくなっている二人の微妙な空気が生々しい。旅の途中ラジオで流れる政治的不安と自身の立場の変化にも戸惑う混迷の時代。頼りになるのは信じてよいか決めかねる古い友人と自分の車。古い記憶にすがるか、それらを捨てて前に進むか、一方通行なコミュニケーションと道に迷った車があちこちへとさまよい、あての無い道程や行き先を模索する姿が彼らの人生とシンクロする。
思えばケリー・ライカート監督は迷う人を描き続けている。
表情や風景を贅沢に切り取りながら旅は続き、途中の焚火や温泉のシークエンスには、思いもよらない緊張感と哀愁が漂い、その静かな覚悟の応酬に涙した。
旅も終わるころ、ハッキリとは告げられないものの、それぞれが別々の道を歩み、この旅が彼らの人生が交差する最後の瞬間であったようにも思われる。しかし、この切なすぎる悲劇の後、自然の瑞々しい風景の記憶とヨ・ラ・テンゴの音楽に慰められて映画は終わるころには、何故だか清々しさをも感じる不思議な感情に見舞われた。

逃れられない孤独感や喪失感を胸に秘めながら、大きすぎる悲劇性の中に微かな優しさと希望を垣間見せる。社会の隅に潜む寡黙な人々の呟きを掬い取り、忘れ去られていく者たちを記録する全てのカットが美しい傑作
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