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愛を弾く女のtakのレビュー・感想・評価

愛を弾く女(1992年製作の映画)
3.6
この映画を初めて観た後、すごく切なくなって数日その気持ちを引きずった。最後の方でつまんないこと書くけど、気にしないでください。

主人公ステファンはバイオリンを作る職人で、ビジネスの相棒であるマキシムと楽器工房を営んでいた。ある日マキシムに恋人がいると打ち明けられる。お相手は若い気鋭のバイオリン奏者カミラ。ステファンはレコーディングを控えた彼女の楽器の調整をし、演奏を控えめに見守る。カミラは次第にステファンが気になり始め、彼がいないとうまく演奏できないとまで言い出す。レコーディングの最終日を控えた夜、カミラはマキシムに気持ちを打ち明ける。静かにきしみ始める三人模様の行方は…。

ステファンがとにかく煮えきらない男で、イライラしたという感想をもった方も多いだろう。議論をしても自分への自信のなさからか、「意欲はあるが、熱意がない」と一歩も二歩も引いてしまう。カミラに迫られる重要な場面でも、「君を愛していない」と拒絶するステファン。その言葉の裏にある彼の思いは、とても曖昧に描かれるので想像するしかない。確かに愛情を感じているのに、彼女を傷つけるような嘘。カミラのこれからの活躍を思うと、しがない職人である自分を卑下してしまうのだろう。恐れと言ってもいいのかもしれない。それは彼女と対等だと思えない気持ちだろうし、相棒とその彼女というトライアングルを崩してしまうことでもある。

カミラは公私ともにうまくやっていた男二人の関係に割って入ってきた存在。相棒の彼女という興味が、その演奏や魅力を知るにつれ、うまく感情を出せない自分と比較してしまったのかも。それでもカミラは彼に言う。
「感情のない人間に音楽は愛せないわ」
この映画で最も響いた台詞だ。演奏で感情を爆発できるカミラと、感情を表に出す勇気をもてないステファン。男と女のすれ違い。切ない。

ステファンと同じような立場になったことが、実は一度だけある。でも僕は鈍感だったから相手が自分をそれ程思っていたりはしないだろうと思っていた。今思うとそれは自分への自信のなさだ。結果として僕は彼女を遠ざけてしまった。それから数年経って、この映画を観たとき、エンドロールを眺めながら涙がにじんだ。あの時、この映画のエマニュエル・ベアールのような気持ちでいたのかな。もっと上手に言葉をかけられたんじゃないのかな。

今回改めて映画を観て、登場人物それぞれの気持ちを考えさせられた。フランス映画の人間模様にジーンときちゃうなんて、オレも歳とったのかなぁ。くすん。
4件
  • 開明獣

    takさん、まだまだ、我ら現役でふよー!! バイオリン🎻弾きの話かと思ってした💦ラブロマンスなんでふね。でも・・・ステキな話ではないですか!!

  • tak

    開明獣さん、ありがとー😂 以前仕事でお世話になった元校長先生に、 「映画を観る人は恋愛ができる人です。takさんもその一人」 と言われたことがある。 ぜってえそんなことないっす、先生! 地味なんだけどいい話ですよ。

  • 開明獣

    takさんのレビューの中の話しも素敵でごわす😌 元校長先生は、目の付け所が鋭いのでは!!

  • tak

    お恥ずかしい😓

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楽しいことに努力を惜しまない、お熱いのがお好きな映画ファン。2019年キネマ旬報社主催 映画検定2級合格。ヨーロッパ映画、80年代カルチャーが大好物だけど、かなり雑食系。アニメも大っ好き。アイコン…

楽しいことに努力を惜しまない、お熱いのがお好きな映画ファン。2019年キネマ旬報社主催 映画検定2級合格。ヨーロッパ映画、80年代カルチャーが大好物だけど、かなり雑食系。アニメも大っ好き。アイコンはジャン・リュック・ゴダール監督作「男性・女性」より。 ◇tak's Movie Awards 2024◇ 例年以上に新旧混じったベスト選出です。何を観たかで選んでるのであしからず。 https://blog.goo.ne.jp/tak-anakin-skywalker/e/a41821398925f956a20f9e011e390a15 ※フォローはご自由にどうぞ。たまにコメントくれると嬉しいです。 ブログ:Some Like It Hot https://blog.goo.ne.jp/tak-anakin-skywalker #「キル・ビル」のルーツを探せ #北九州ロケ映画 #名作映画ダイジェスト(1980)収録作