この映画を初めて観た後、すごく切なくなって数日その気持ちを引きずった。最後の方でつまんないこと書くけど、気にしないでください。
主人公ステファンはバイオリンを作る職人で、ビジネスの相棒であるマキシムと楽器工房を営んでいた。ある日マキシムに恋人がいると打ち明けられる。お相手は若い気鋭のバイオリン奏者カミラ。ステファンはレコーディングを控えた彼女の楽器の調整をし、演奏を控えめに見守る。カミラは次第にステファンが気になり始め、彼がいないとうまく演奏できないとまで言い出す。レコーディングの最終日を控えた夜、カミラはマキシムに気持ちを打ち明ける。静かにきしみ始める三人模様の行方は…。
ステファンがとにかく煮えきらない男で、イライラしたという感想をもった方も多いだろう。議論をしても自分への自信のなさからか、「意欲はあるが、熱意がない」と一歩も二歩も引いてしまう。カミラに迫られる重要な場面でも、「君を愛していない」と拒絶するステファン。その言葉の裏にある彼の思いは、とても曖昧に描かれるので想像するしかない。確かに愛情を感じているのに、彼女を傷つけるような嘘。カミラのこれからの活躍を思うと、しがない職人である自分を卑下してしまうのだろう。恐れと言ってもいいのかもしれない。それは彼女と対等だと思えない気持ちだろうし、相棒とその彼女というトライアングルを崩してしまうことでもある。
カミラは公私ともにうまくやっていた男二人の関係に割って入ってきた存在。相棒の彼女という興味が、その演奏や魅力を知るにつれ、うまく感情を出せない自分と比較してしまったのかも。それでもカミラは彼に言う。
「感情のない人間に音楽は愛せないわ」
この映画で最も響いた台詞だ。演奏で感情を爆発できるカミラと、感情を表に出す勇気をもてないステファン。男と女のすれ違い。切ない。
ステファンと同じような立場になったことが、実は一度だけある。でも僕は鈍感だったから相手が自分をそれ程思っていたりはしないだろうと思っていた。今思うとそれは自分への自信のなさだ。結果として僕は彼女を遠ざけてしまった。それから数年経って、この映画を観たとき、エンドロールを眺めながら涙がにじんだ。あの時、この映画のエマニュエル・ベアールのような気持ちでいたのかな。もっと上手に言葉をかけられたんじゃないのかな。
今回改めて映画を観て、登場人物それぞれの気持ちを考えさせられた。フランス映画の人間模様にジーンときちゃうなんて、オレも歳とったのかなぁ。くすん。