砂場

股旅の砂場のレビュー・感想・評価

股旅(1973年製作の映画)
4.2
五十八歳の巨匠がATGで撮った荒々しくも若々しい一作!
まずはあらすじから


ーーーあらすじーーー
■渡世人とは、、
刀は刺しているが武士ではなく、賭場から賭場を渡り歩き一宿一飯の恩を受ける。
■玄関先で、仁義の儀「軒先の仁義を失礼さんにござんすが、手前控えさせて頂きやす、、、、なにぶんお引き立てを」
まずは信太(尾藤イサオ)、懐からお礼としてお手拭きを差し出す
次に源太(小倉一郎)、最後に黙太郎(萩原健一)となったところで
貸元の主人もいい加減疲れてもう儀はよろしいという
桶に水を張ってもらい足を洗う三人、彼らのような渡世人、出された茶を飲むと、その家のために働く作法、おかわりは必ず2杯、食べきれない時は真ん中を凹ませ2杯目をよそってもらう
仁義の儀の出自は結構でまかせが多い
■この日貸元で敵の夜討ちがあると助太刀要請、刀を振りまわし敵ヤクザを撃退した。
博徒の出入りは、金がかかる、用心棒を雇う金、治療費、葬儀費、終わった後の酒盛り、、、なので適当なところで仲裁人を入れる場合もある
この日は仲介は不調で仲介人は殺された、両陣営まみれて斬り合いになるが辛くも生き延びた三人
■安吉は百姓の老人から金の取り立て、老人は若い妻お汲(井上れい子)をもらっていた
■大きな賭場が立つ話が入った、大物親分も5、6人来るという
三人でいただきだ、農民の賭場を襲撃し小銭を強奪
■三人は番亀親分のところに雇われていた。番亀のところで取り立てをやっている安吉、源太は安吉を見るなり、ちゃん!おお源太!どうしたい、、でっかくなったなあ、おめえ何やってんだ、渡世の道だ、なにい無宿か、父は自分が妻や源太を捨てて女と出て行ったのだが息子が渡世の道に入るのは嫌だった
■髪をすく女若い妻お汲を襲う源太
■安吉は壺振りとグルになりいかさまによって番亀の賭場の評判を落とし、敵対するくみのいいポジションを狙っていた。
■源太の父ちゃんはお春と暮らしていた、源太が来た、いつから番亀に草鞋脱いだのか?5日になる、
■番亀親分に壺振りのインチキがバレた、壺振りは指を詰められ安吉の企みを自白してしまう。番亀親分は源太にお前の親父は番亀の評判を落とそうとしたんだ、親父の首をもってこい!!
源太は動揺するが、これも一宿一飯の恩義、渡世人の掟。行って、、まいり、、やす、、、
信太と黙太郎は、お前ほんとに行くのけ、というが源太の決心は固かった
安吉のところに来たがおとっちゃん出かけてるよ、そのうち帰ってきた安吉に斬りかかる、渡世人の義理と自分を捨てた恨みと、、
■お汲のところに来た源太、おめえ、おらと逃げねえか、、
三人と若妻お汲は闘争の旅に出る、
番亀は源太が安吉を殺したことを評価するどころか、親殺しの罪人を抱えておけねえと言うことで追い出された。
添え書きなんて持たせられない、草鞋銭とっとけ、、
三人とお汲の道中、道の真ん中にへび、信太は蹴飛ばす、途中で未知の土手から落っこちた、信太は足の裏を怪我する
大雨になりずぶ濡れの一行、
■源太のおっかぁの家に着いたが誰もいない、養子に出された弟によると家族は散り散りになっていた、お汲の夫の息子が探しにきた、戻りたくないお汲は息子をカマで殺す
お汲も罪人になり行き場を失ったので、飯盛女のとこに売りに行く
■黙太郎は次は飯岡のところに行くぞという
信太は破傷風で苦しんでいる、
源太はお汲に三月経ったら迎えに来るからと約束
黙太郎の祈祷のかいなく信太は死亡


<💢以下ネタバレあり💢>
■時まさに天保15年、天保水滸伝で知られる縄張り争いの最中
源太は半兵衛についていたが、黙太郎は半兵衛が相手に寝返る情報を得ており半兵衛を殺せば助五郎親分に認められるぞと囁くが源太は義理堅く
黙太郎は一人で半兵衛を斬りに行くが源太は行手を阻み黙太郎の左手に傷をおわせる、もみ合っているうちに源太は土手から落下、大きな岩に頭をぶつけて死亡
戻ってきた黙太郎、源太を探し、おーい、、、あいつ野糞でもタレに行きやがったかな、、、完
ーーーあらすじ終わりーーー



🎥🎥🎥
前進前進前進横道
前進前進前進はぐれ道
前進前進前進の旅だぜ
前進前進人生大博打

『股旅(ジョンと)』奥田民生

本作『股旅』は市川崑が五十八歳の時にATGで作った作品だ。すでに当時大ヒット多数の巨匠が
低予算のATGで映画を撮ると言うあくなきチャレンジ精神がすごい
脚本の谷川俊太郎とは相性がいいのか何本か市川崑映画の脚本を担当している。

本作はまず冒頭の渡世人の口上の早口が衝撃的。さすが詩人の感性の谷川俊太郎、言葉は音であるという風に音の響きにこだわっている。
実際になんて言っているのかあまり聞き取れないが、観客にわかりやすく伝えようということはせずに、音の連なりを浴びさせることにフォーカスしている。
今で言うとフリースタイル・ラップのような高速の節回しで自分の出身などを述べるのである。
音楽も全体的にロック調でアップテンポ、
増村保造のロック調『曽根崎心中』もATGだったな、あの雰囲気に近いかも

源太、信太、黙太郎の三人組はアンチヒーロー的で全然強くもカッコ良くもないし無意味な行動ばかり、、70年代の気分ってこんな風だったのだろうか時代劇ではあるが現代風だ
侍じゃないので正当な剣術の訓練を受けていないから刀をやたら振り回すだけのメチャクチャ流であるが、市川崑らしくスタイリッシュでスピーディーなアクションシーンになっている。カッコ悪いけどカッコいい!
ラストの源太vs黙太郎の場面の無茶苦茶スピーディーなカット割はなんだろうか、クレジット見なかったらどこぞの若い映画監督のデビュー作かなと思わせるような破天荒なエネルギー。
これを五十八歳で撮る市川監督ってすごいわ

面白いのは、渡世人の世界はルールが大事であるところ。口上のあとでお手拭きを手土産として主人に差し出す、
一度お茶をいただいたら主人のために仕える。たとえ親が敵方になっても義理を通す。ご飯は必ず2杯いただく、、、
この仁義システムがヤクザの世界まで一貫して機能してしたのだろう、だからこそ『仁義なき戦い』がこれまでの概念をひっくり返すくらいのインパクトがあったわけだ

お汲役の井上れい子は知らない女優さんだが、何気に綺麗な人だ
それでいて泥臭い部分を持っている。ラストの衝動的行為もとても説得力がある
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