あなぐらむ

ゆがんだ月のあなぐらむのレビュー・感想・評価

ゆがんだ月(1959年製作の映画)
3.7
長門裕之+南田洋子主演のサスペンスだが、これは紛れもない恋愛映画であり青春映画。お互いに断ち切り難い何かで結ばれてしまった男女の彷徨を、神戸→東京へとブリッジして描く。

真人間になろうと苦闘する長門、嫉妬や憎悪を全面に出し隠そうともしない南田、二人を動かしてしまう清廉な魂・芦川いづみ。
なんとびっくり、大坂志郎が兄弟二役で二つの舞台を連結してしまう前半後半に違和感が無いのは、脚本・山崎巌の筆が細かく人物を描き分けているから。
山崎巌はこの後「渡り鳥」「流れ者」シリーズを手掛けていくが、本作はその為の秀作のようにも見える。神山繁演じる口笛を吹くクールな殺し屋はコルトの銀(ジョー)の原型だろう。

姫田真佐久撮影のモノクロを生かしたまさに「影」を動かす映像、え?ここで?という移動撮影は、場面転換など細かい見所が詰まっている。
観光地を巡りながら台詞でお話を進行する手法も「渡り鳥」と同様。
梅野泰靖が安定の外道ぶり、新人・赤木圭一郎の登場も面白い。そりゃねぇよいづみちゃん!

男女の物語がそのまま巨大な人身売買事件とクロスオーバーしていくダイナミズムを松尾昭典は幾分クラシカルなハリウッド映画風に描出する。
「日活アクション」が目覚めるのはもう少し先の事だ。