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お早ようのろのレビュー・感想・評価

お早よう(1959年製作の映画)
5.0

「ねぇ、お母さん。テレビ買っとくれよ」
「買っとくれよ、テレビ」
「だめよ。だめだめ」

テレビを買ってほしい兄弟 実と勇。
2人の両親に対する反発、ご近所付き合い。
大人の感覚と子どもの気持ち。
とにかくリアルでコミカル!
とても面白かった。

「行って参りまぁーす!」
「どこ行くの?」
「英語習いに行くんだよ」
「いさむちゃんは?」
「そうだよ」
「またテレビじゃないの?お隣行っちゃダメよ」
「オフコース、マダム!」
「アイラブユー!」
「ばかねぇ」

冒頭のこの会話、心を鷲掴みにされる。
いさむちゃんの「アイラブユー!」、本当に可愛いんだよ。

世の中には無駄なものがたくさんあって、でもそれらは生活する上でとても大切。

テレビが欲しい兄弟とお父さんが口論をする場面。
「だいたいお前たちは何だ!男のくせに余計なことを言い過ぎる。少し黙ってみろ!」
「余計なこっちゃないやい!欲しいから欲しいって言ったんだ!」
「それが余計だって言ったんだ」
「だったら大人だって余計なこと言ってるじゃないか。こんにちは、おはよう、こんばんは・・・」

実と勇は家ではもちろん、学校でも絶対に口をきかないと誓う。
近所のおばちゃんに「あら、実ちゃん、おはよう」と声をかけられても返事をしない。
学校でも一言も話さないため、先生が心配して家にやってくる。

あいさつって人のコミュニケーションの中で大事な要素なんだなぁ。あいさつ1つしないことで不信感や誤解が生まれ、嫌な噂が広まることだってある。
あいさつ以外にも無駄なことって結構大事。世間話や噂話、愚痴を言うことも大切なコミュニケーションなんだね。
娯楽もそうだ。それこそテレビ、ゲーム、漫画、映画・・・なくても生きていける。けれど、仕事ばかりしているのでは煮詰まってしまう。気分転換のツールとして、生活に欠かせないもの。

「子どもから見りゃ大人のあいさつなんて、無駄って言えばみんな無駄みたいなもんだからね」
「でもその無駄が世の中の潤滑油になってんだよ」
「そのくせ大事なことは言えないもんだ」
「そうだね、無駄なことは言えてもね」

ある日、実と勇はプチ家出をする。
バツが悪そうに帰ってきた2人を待っていたのは・・・。

私が携帯電話や自分のパソコンを買ってもらったのは大学生になってから。DSやWiiなどのゲーム機はいまだに持っていない。小学生の頃、周りの友達はみんなゲームで遊んでいた。羨ましかったし、めちゃくちゃ欲しかったけれど、私の母は絶対にだめだという。
その代わりに私は本をたくさん読んだ。特に江戸川乱歩の少年探偵団シリーズが大好きで、小学生時代の私のヒーローは小林少年だった。(笑)
当時は周りの友達に劣等感を抱いて、同じような生活ではないのが不満だった。しかしその経験は今、活きている。あの生活があったからこそ、映画が楽しめるんだと思える。

だから、ナショナルテレビの箱が映るカット、嬉しくて嬉しくて涙が出た。箱を見てパーッと輝く2人の顔を見て、「よかったねぇ」と涙が出た。

私にとって電子機器=高価なものというイメージ。だから買ってもらう時、嬉しい反面、「本当にもらっていいのかな・・・」と戸惑う。でもやっぱり嬉しい。その気持ちが蘇って、実くんと勇ちゃんに自分を重ねてしまった。

時代は進み、技術は発展する。
でも、それに頼りすぎると、いろんなことを感じる心が鈍ってしまう。
それこそ一億総白痴化だ。
想像力、思考力・・・大切なものを失わずにいたい。

温かくて、笑いあり涙ありの素敵な映画。
落ち込んでいる時に観たら、きっと元気になれる。
ろ