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ヒルコ 妖怪ハンターのHKのレビュー・感想・評価

ヒルコ 妖怪ハンター(1991年製作の映画)
4.1
諸星大二郎原作のホラー漫画を『鉄男-the iron man-』『バレットバレエ』などの塚本晋也監督が実写映画化。キャストは沢田研二、竹中直人、工藤正貴などなど

妖怪の実在を訴え、学会を追われた考古学者が、亡くなった妻の兄から「古墳を発見したから来い」という旨の手紙を授かる。一方そのころ、兄は古墳がある洞窟を探索していたが、そこに教え子の女子が迷い込む。しかし、二人の背後には恐ろしい魔の手が…

塚本晋也監督と言えば代表作の『鉄男』なども含めて、バロック芸術志向と言いますか、1920年代の斬新で鋭敏な視覚的効果で観客を驚かすことを物語性、語りの経済性よりも優先さえる芸術映画的な作品が非常に多いという印象を受ける。

そんな塚本監督が漫画原作のオカルトホラー映画を撮るというのも今じゃあり得ないような気がするが…やはり視覚効果中心の塚本さん、すごい映像的に驚かされるような演出が際立つ素晴らしいホラー映画に仕上がっていましたね。

個人的には、あの斬新な演出は大林宣彦監督の『HOUSE』にも近しい生首の描写にも等しいような、素晴らしい漫画的な外連味もありながら、スタイリッシュにも見える素晴らしいスプラッター描写やグロテスク描写が際立つ作品でしたね。

主人公を演じるのは『太陽を盗んだ男』『魔界転生』などの沢田研二、ジュリーですよ。相変らずここぞで出すシャウトは女生徒はまた違うカリスマ性を感じますよ。

今回ジュリーが演じた稗田礼二郎は、原作だともっとクールなキャラクターなのですが、この映画ではひたすらおどおどしていて頼りがいがないキャラクターになっている。これもまた、市川崑が『犬神家の一族』で金田一耕助に施した、言うなれば天使的なキャラクターの変貌に近しいともいえる。

これで頼りがいがあったら、順調に行き過ぎて映画的な面白み、パニック描写ができませんからね。犬神家の一族やHOUSEなどでもそうですが、この映画も作り物の生首が仰山出てきます。しかもその二作に比べてすごい悪趣味的に。

ヒルコのデザインは思いっきりジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』のクリーチャーのオマージュだろうね。竹中直人の例のシーン含めて、首の分離の仕方なんて思いっきりそれ。映画後半はそういうシーンがてんこ盛りでそこがとても良かったと思います。

塚本晋也監督の最大の特徴、鉄男でもそうですが、怪物や怪人の主観視点で流れるように動き回るカメラワーク、これが一番素晴らしい。この映画における前半のヒルコが怪人を襲うシークエンスも、学校の建物構造を利用しながら、見事に蛇のように素早い移動を見せる。

あのカメラワークをしている際に、流れるヒルコの唸り声のSEもまたいいですね。そこからまさおを襲うまでの過程の切り返しも緊張感あっていいですね。

映画開始直後に竹中直人と上野めぐみを襲う過程で二人の顔をデカトラージュしながら後方にあり得ない体勢で引っ張られる所なんて、もろジャン・エプスタンの『アッシャー家の末裔』のオマージュなんですけど、そこも見事に現代技術も交えながら見せていく所とか素晴らしいですね。

この頃ぐらいから、『帝都物語』なども含めて、それまでの特撮にしっかりとした古典的、それこそサイレント期の映像中心主義の特殊な撮影技法を持ち込む特撮映画も増えてきたので、これもその中の一つなのかもしれませんね。

当時斬新だったVFXも、今見るとチープに見えてしまいますが、やはり時代を反映していて今見るとスゴイと思えてしまいますね。

塚本晋也監督作品てあまりユーモアとかがないような気がしたんですけど、ああでも『野火』とかではブラックユーモアが効いてたか、この映画では沢田研二さんが偶に入れるギャグとかが見ていてとても良かったと思いますね。だから深刻な話にもそんなにならないところも素晴らしい。

ただ、最後の夜が明けてからの例の古墳から出てきた霊圧みたいなのは、VFXとはいえちょっとださかったかな。あそこがね。

でもやはり怪物が襲ってくる過程は怖い。右側から首が飛ぶとかあそこももろHOUSEっぽい。遊星からの物体Xからのオマージュもすごいのですが、よりグレードアップしていて良かったと思いますね。

いずれにしても見れて良かったと思います。塚本さんもっとホラー映画撮ってほしい。もっとフィルモグラフィー見たくなりました。
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