ハル奮闘篇

ブロンコ・ビリーのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

ブロンコ・ビリー(1980年製作の映画)
4.8
【 行くぜブロンコ=ビッグな男! すてきな仲間をひきつれて 喧嘩と恋を道づれに 広いアメリカ旅から旅へ! 】
 ※さすらい農場さんに教わった封切時のチラシのコピーです

年明けにクリント・イーストウッド監督・主演作「クライ・マッチョ」が公開されますね。
1971年の初監督作「恐怖のメロディ」から50年、42本目の監督作になるんだそうです。すげぇ~!!

この「ブロンコ・ビリー」は1980年の7本目の監督作。
人情味溢れる、あたたかくて楽しいコメディで、封切時に映画館で観て以来、何度も観ています。
イーストウッドが往年のスクリューボールコメディに憧れて作った、監督自身もお気に入りの映画だそうです。

主人公は、アメリカの土地土地をまわって、テントで「ワイルドウエストショー」(西部劇ショー)の興行をする小さな一座の座長ブロンコ・ビリー(芸名)。
この時代、既に西部劇は時代遅れのものになっていて、一座の暮らしは決して楽ではない。
それでもビリーは「人生は一度しかないから、自分がなりたいものになったんだ」と自分の生きざまに誇りをもっています。

毎日の暮らしをともにする一座のメンバーは、ちょっとワケありの連中ばかり。
みんな、興業の不入りで給料が滞りがちなことに不満を漏らしながらも、それでも、正義感が強くちょっと短気で子供っぽく、何より仲間を心底大切にする座長が大好きで、彼についていきます。
ある日、一座に、ひょんなことから気の強い令嬢が加わることになって……という物語。

好きなシーンを挙げたらキリがないのですが。
例えば、座員の青年がベトナムの徴収逃れで警察に捕まってしまった、そのときにビリーがとる行動にグッときます。
それから、イーストウッド映画で印象的に使われる星条旗。この映画では、これ以上ないイキな使われ方をしています。

そう、テーマで言うと、後年の監督作の要素がもう顔をのぞかせていますね。
「時代遅れ」は「グラン・トリノ」「スペースカウボーイ」。
「疑似家族」は「ミリオンダラー・ベイビー」「パーフェクト・ワールド」など。

そして、弱い立場の人、マイノリティへの優しさも随所に感じられ、監督の願う世界がよくわかります。主人公自身の弱さをも隠さず、カッコいいだけのヒーローではない、人間くさい魅力的な人物として描かれているし。

「西部劇」が、本来はドンパチの殺し合いだけでなく、開拓者たちの苦労を描くものなら、貧しいながらも明日に希望をもって生きていく人々を描いたこの映画はまさに西部劇!

ラストのビリーと一座のみんなの晴れやかな笑顔は、クリント・イーストウッド自身の笑顔でもあるんだろうなあ、としみじみウレシイ気分になります。
あたたかくて楽しい映画です。 
機会がありましたら是非ご覧ください。

【オマケ】
「スクリューボールコメディ」は1930年代から40年代に流行った作品群で、気の強い女性と男のテンポの良い丁々発止の騒動があって、次第に恋に落ちていくというのがパターンだそうです。
僕が観たなかでは、フランク・キャプラの「或る夜の出来事」、ハワード・ホークスの「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」などが良かったです。
モノクロが苦手でない方なら楽しいですよ!