優しいアロエ

抵抗(レジスタンス)-死刑囚の手記より-の優しいアロエのレビュー・感想・評価

4.8
〈作ってわくわく♪抜け出してわくわく♪〉

 手元に焦点を定め、事象を淡々と書き留めていくブレッソンの映像美学は、「手口」を観察することに醍醐味のある脱獄劇と驚異の相性をみせる。扉の溝をほじくるだけで、布を四つ折りにするだけで、もう格別に面白いのである。

 ここから想起したのは、『ノーカントリー』と『タクシードライバー』(あとはNHKの某工作番組)だ。『ノーカントリー』なら、傷を負ったアントン・シガーがホテルで黙々と治療するシーン。『タクシードライバー』なら、トラヴィス・ビックルがベトナム戦争の従軍経験を活かして簡易的な装備を手作りするシーンだ。これらには本作の妙味が時代を経て宿っているのではないだろうか。

 また、主人公の知覚できる範囲に描写が抑制されているのがすばらしい。主人公から離れた場所が悪戯に映されたりしないため、我々は彼と狭い世界を共有することになる。似た醍醐味のある作品としては『裏窓』。この作品からの影響を本作は多分に受けていよう。たとえば、主人公が鉄格子から外を眺める姿を対面から映しつつも建物の壁は映さなかったり、鍵穴から外を見つめる主観ショットがあったりなどだ。

 さらに本作がすごいのは、視界だけでなく「音響」にも注意するよう、こちらを誘導していることだ。警備員の足音や銃の射撃音といった貴重な情報を主人公と同時に耳から集めていく経験ができる。ブレッソンが視覚だけでなく聴覚を巧みに刺激するという指摘は『ラルジャン』など他の作品でもしばしばなのだが、そんなブレッソンのスタイルに着目する練習としては、この『抵抗』が相応しいかもしれない。

 一方、副題から抱いた悪い予感はたしかに的中し、モノローグが頻発するきらいがあった。ただ、あくまで映像描写がメインだったからか脱獄者の回顧ほど面白いものもないからか、さほど気にならなかった。
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