けんたろう

シェルブールの雨傘のけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

シェルブールの雨傘(1963年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

アヌーク・エーメに振られた男がカトリーヌ・ドヌーヴにプロポーズするおはなし。


ジャック・ドゥミの色彩感覚とミシェル・ルグランの日常感覚とに彩られたワンシーンワンシーンがとにかく素敵。心が少しく華やかに成る。シーンとシーンの繋ぎ目の演出もたいへん面白く、詰まるところ表現が楽しい。
然うして極め附けは──此れに触れてしまふのは些か野暮なんかもしれないが、然し何うにも無理なので云はせてくれ──

まさか、全部が、歌なんて!!!

吃驚。
成るほど其れだけでも十分美しき響きを有する彼の言語に、態々何かを施さんとするのは蛇足といふものであらう。然し本作の其の「蛇足」は、演者の口から放たりし一つひとつの言葉を正に小鳥の囀りが如きものへと昇華させ、此の終始不安の立ち込むる物語りに一凛の優しさを添ふる効果を与へてゐる。先に挙げた御両人には、最早や感服である。
むろん違和感は有る。だが、ストーリーテイリングの妙が故か、初めに覚えし違和感も終はる頃にはすっかり消えてゐた。何んだか不思議な気分である。

ところで、本作、つくづく不条理な物語りである。もうジャケット詐欺だのタイトル詐欺だの云っても差し支へはあるまい。とはいへ、ちょっぴり幸せな物語りでもある。切ないけれども幸せ。あゝ、若しや其の目のまへに在る少しの幸せこそ、最も大切にすべきものなのかもしれない。
まあ然し、色見と云ひ、音楽と云ひ、然うして切なき幸せと云ひ、華美ではなくとも何んだか『LA LA LAND』が思ひ出さるゝ一作であった。