レオピン

美しい庵主さんのレオピンのネタバレレビュー・内容・結末

美しい庵主さん(1958年製作の映画)
3.7

このレビューはネタバレを含みます

アキラとルリ子の学生アベック(死語)が尼寺で過ごしたひと夏

二人の掛け合い漫才がメチャクチャ面白い。道の往来で喧嘩を始めれば、交通はストップ。超絶美人のうえに口喧嘩王。ルリ子のハイスピード突っ込みを誰が受け止められるのか。

昭和30年代というのは、80年代とはまた違った明るさがある。だが戦後の影ももちろんあった。口減らしのために尼寺にやられたという彼らと同年代の麗しき尼僧、昌妙。このちょっと三角関係チックなところが見もの。彼女の心の動きが切ないのよ。

元々、自らの意思で帰依したわけではないのだから迷うのは当然。なのにやれ世間知らずだ、棺桶に半分入った人間だ、だの口さがない言葉(小沢昭一だ)にぶち当たる。僧形の姿で通学したり買い物したりするいづみちゃんは尊いしちょっぴりかわいい。

古来から寺院というのはアジールとして、身の危険が迫った人、行き詰った人たちの駆け込み先として存在した。そんな人間を受け止めるのは、限りなくゆるーくて大らかで時に口の悪い尼たち。特に智道尼という出戻りの尼さんがいたが、彼女だからこそ救われる人もいるのだ、きっと。

ルリ子は女の直感で間に入ってきた昌妙のことを警戒する。でも最後に流行りのバッグを渡す。あれは彼女の賢者の贈り物だったのか。静かな山寺ににぎやかさを持ち込んだ二人。ルリ子はスマホのように片時もポータブルラジオを離さなかった。いつの時代も若者は音を求めている。

大事なものを掴みとったアキラとルリ子はスッキリ顔で寺を後にする。一方で昌妙さんの煩悶は続くのか。今だけは経ではなく、悦子の持っていたポータブルラジオから流れていた音楽に耳をすます。大きな木の下でたたずむ彼女の姿に、ふと韓国映画『猟奇的な彼女』の一場面を重ね合わせジンときてしまった。
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