こっちは今わの際だってのにロベールのうそつき野郎が嬉しがらせを抜かす。
レティシャがどんな女かロベールより知っているとは言わないが、少なくともあの孤独なユダヤ女は俺を選びはしなかった。ロベールが何を聞きだしてたか知らないが、この島をホテルにしてヘリポートだって?なるほど、そうすれば俺も一枚噛んでというわけだが、それがレティシャの念願じゃないのは判ってる。なら、ヤツはエンジン王の夢を放ってどこに行っちまうんだ?余計な義理立てで冒険から降りるてぇのならこっちが死んだほうがましだぜ、うそつき野郎め。
と、いうわけだ。
うそはうそでもマヌーに向けたうそよりも、我が身についた嘘こそこの心に沁みる。しかし、こうして振り出しに戻ってみても、もう昔の素朴なエンジン屋などどこにもいない。偽りない今の俺はもうここでレティシャを偲ぶしか身の扱い様が分からないのだ。
だから、うそでもマヌーが必要だった。まさか奴が死んで冥土で死者レティシャの真実の口が開かれたなら俺はマヌーに何の面目が立つだろう。
レティシャの告げた俺と暮らすの言葉が、今こうしてひとり残されてこれほど重くのしかかるとは。しかし、うそを生きる道連れのマヌーとともに平穏を偽ってどっちが先に音を上げるだろう。行く末の判り切った事を踏み出さずに死んだマヌーが無性に羨ましい。こうして流れる涙は生き延びてしまった自分に注がれるべきものなのだ。