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遊びのTnTのネタバレレビュー・内容・結末

遊び(1971年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

 ピュアすぎん?彼らの青春は破滅しなければハナから成り立たないではないか。その切迫した状況、戦後。原作は野坂昭如の「心中弁天島」、焼跡闇市派文学と自ら名乗る野坂による、戦後の影の重くのしかかる内容である。またデビュー一年目の高橋惠子と、今作初デビュー作となる大門正明の主演二人の瑞々しさもあり、その影の中でなんとか輝こうとする姿が眩しい。にしても、この誇張された演技が何故か鼻につかない増村保造マジックはなんなのだろうか。最初は「カビリアの夜」のような善を信じる心を挫くような作風かなと思ったが、彼らが社会に汚れず青春に身を捧ぐ辺り、ファンタジーですらあるが思わず心動かされる。増村は一時イタリアでフェリーニなどから学んでいるから、ネオリアリズモ的な貧困描写と、それに立ち向かう人物像という構成や信じることについての扱い、また演技方法などかなりイタリア式なのだと思う。

 少女特有のアンニュイな表情のスチール写真で始まる今作。この映画はその表情のショットの間に回想を挟む形式を取っている。クレショフ効果的に彼らの顔にはそうした悲痛な戦後の傷跡が縫い付けられる。ちなみに少女演じる高橋恵子(今作品時のクレジットでの表記は関根恵子)は、デビューが「高校生ブルース」という16歳で妊娠する役で、その体当たり演技を今作でも見せている。若くして大人の世界に踏み入れる危うさというような系譜の映画に多く出てるようで、今作もその流れありきなのかなと思った。ややロマンポルノっぽさもあるのはそのせいだろう。例えば少年が初めて少女の裸を見るシーンの前に、シャワーシーンでもって観客に先に裸を提示するあたりロマンポルノ的な背徳感を抱かせてくる。対する少年役の大門正明は、どこか原作者野坂昭如に似せられた人物造形に見える。性格が似てるのはそうなのだが、髪型といい、ちょっと口の曲がった感じといい、見た目も似ている。野坂昭如という焼け跡を知る人物の姿を借用することで彼の悲劇性を取り込み、役に厚みを出しているようにも思える。

 自滅。青空と揺れる草木、等身大の青春が沈む船に自ら先もわからず乗る姿は神話だ。心中だが、あれは死に向かうには生き生きしすぎている。あれほど能動的な死のあり方は、もはや希望すら窺える。
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