Oto

台風クラブのOtoのレビュー・感想・評価

台風クラブ(1985年製作の映画)
4.2
抽象度は高いけど、普遍的で潜在的な本質を突いてくる作品。問題解決よりは問題提起、いわゆるスペキュラティブアートに近い。
自分にとっての良い映画ってこういう作品。

自分が特別な人間だと信じたくて突飛な行動を起こしてみるけど何もできなくて「普通の大人」になることを自覚する、って多くの人が経験しているはずで、自分にも大いにあてはまるので刺さる。
中3って中身は既に大人で立派に欲望も不満も抱えているんだけど、取り返しがつかない行動の後で自己解決できるほどの能力や責任はまだなくて、どうでもよくなって色々クラッシュした上で他人のせいにする。

勝手な不安と責任感を感じて非日常に飛び込んでみるけど、夢や狂気を内に抱えているのは自分だけじゃないし世界の中心は自分じゃないので、結果的には理解不能な行動になって日常に引き戻されてしまう(「ただいま&おかえり」はこの象徴?)。三上は死んだにしても生きてるにしてもダサいし、東京へ向かった理恵も、美智子を襲おうとした健も結局何もできずに元の場所に戻っている。

ダンスを筆頭に(絵的にも内容的にも)インパクトの強いシーンは多いし音楽も印象的だけど、撮影視点が遠くて変なカメラワークは多いし登場人物は分かりにくいし、アート性を高めるための「あざとさ」も感じた。同性愛、オカリナ、顔の十字架、いない母親など。解像度が低くて音ずれもあるし技術的な問題もあるのだと思うけど、三上が高尚な哲学人を気取っているのと対応させて、作品自体もあえて難解に見せているのかもしれない。監督に追い詰められた子役の演技もどこかわざとらしさを残している。演出も演技も再現は難しいだろうけどリメイクがみたいな。。

それでも終盤のダンスは『桐島』の屋上のように、閉塞空間だからこその爆発的なカオスがあって、若者のエネルギーと鬱憤が表現されていてすごく好き(曜日別の構成とかも影響を受けていそう)。カメラを意識したステージ上のダンスと、台風の中のカメラから遠い裸ダンスも、対照的に見えた。
三上の飛び降りもあれだけ長くタメて「厳粛な死」と振っておいて、コミカルなアイロニーで終わるっていう儚さがいいよね。ラストで理恵と走るのが明っていうのも皮肉と儚さがある。
この映画における「台風」が「桐島」なんだろうけど、「前田」だと思っていた「三上」があんなオチを迎えてしまったので、希望を見出して自分への教訓として言語化するのが難しい。より大人な作品だと思った。

何者でもない自分が真面目に作品と向き合った結果、誰にも伝わらなさそうなレビューになったけど、無理やりまとめると「人生そんなに甘くないしあなたは特別な人間じゃないけど、何かをやって恥をかいて生きていくしか成長の術はない」という感じかな。
『ブレックファストクラブ』をいよいよ観ないとだし、相米作品も色々観たいけど、子供でいられる時間がもうあまり残されていない。
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