優しいアロエ

クレイマー、クレイマーの優しいアロエのレビュー・感想・評価

クレイマー、クレイマー(1979年製作の映画)
4.2
〈どこか不穏な幕引きとなった『卒業』のその後〉

 なるほど、これは『マリッジ・ストーリー』によく似た作品だ。離婚を決め、逆方向へと進んでいったはずの2人が、「離婚」という共通のゴールへ肩を寄せあって歩んでいるようにも見える。

 弁護士と夫婦の温度差の違いを捉えているのも『マリッジ・ストーリー』と共通の妙味。冷静な手段であるはずの裁判が思いがけずヒートアップし、当事者を傷つけてしまう。

 さて、そんな離婚映画の傑作『クレイマー・クレイマー』は、なぜ70年代末につくられ、オスカーの主要部門を総なめにしたのだろうか。その所以が調停裁判のあたりから見えはじめる。

 父親は外で、母親は内で働く。そんな典型的な役割分担が、2人の間にいつのまにか亀裂を生んでしまったのだ。これは『卒業』でようやく古い価値観から抜け出したダスティン・ホフマンが結局社会に蝕まれてしまった姿にも見えた。(2本連続で観たのも原因)

 外側から見れば不自由のない暮らしが実は内側で個人の自由を押しつぶしている。しかしそれは、時代の変化にともなって個人が新たな価値観を手に入れつつあることの証左でもある。
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