リチャード・C・サラフィアン監督によるアメリカン・ニューシネマの作品の一つ。キャストはバリー・ニューマン、クリーヴォン・リトル、ディーン・ジャガーなどなど
新車の陸送を仕事としている一人の男が、白のダッジ・チャレンジャーの陸送をデンバーからサンフランシスコまで、15時間以内に運びきる仕事を請け負う。その距離1300マイル、約3000キロの長距離を、警察の追手を振り切りながらただただ走る。
アメリカン・ニューシネマの代表作の一つ。主に犯罪者に焦点を当てて、彼らが権力から逃走していく光景を思い浮かべるのがアメリカン・ニューシネマという印象ではあるが、この映画はまさにそのイメージにすっぽり当てはまるような内容である。
主人公のコワルスキーは、劇中ほとんどしゃべることのない寡黙な男、そのために彼の過去や内面というものはほとんど描かれない。しかし、彼がひたすらシスコに向かって奔走する姿に、彼に共感する人間が次第に心を動かされ彼を支援する側に周る。
集団心理として、その中で異様な行為に走る人間に対してそうじゃないその他大勢が加勢するというようなことがるのだが、それくらいこの映画ではそのような側面を利用して、コワルスキーを英雄化しているようにも見える。これが映画という物語を見せていく際に一番重要なやり方なのでしょうね。
特に、何の理由もなく警察の無線を傍受して、彼に対して先行きをアドバイスするスーパーソウルという盲目の黒人DJが一番印象に残る。この映画で彼を支援したり、物語で直接かかわりを持つのは、ヒッピー文化の人間や黒人、障碍者などなど、社会から爪弾きされる立場の人間が主である。
特にキリスト教信者からしてみれば、裏切りの象徴ともいえる蛇に対して、一度捉えておきながら逃がしてやるというようなショットを入れるのは、厳格なキリスト教に対するアンチテーゼのようにも感じ取れる。
裸でバイクに乗る女はレディ・ゴディバ、盲人が盲人を先導するのは盲人の寓話など、それぞれ歴史絵画的なイメージから抜き出しているせいか知らないが、どこか聖性をも含んでいるのがこの映画の良きところ。
また、そのようなニューシネマ的テーマ性をしっかりと内包しながら、カーアクションとしても群を抜いたかっこよさを誇り、追ってであるパトカーなどを振り切る様子はスピルバーグの『激突』などをも想起するスリリングな展開となっている。
特に公道を抜け、砂漠地帯を突っ走る所は、ダッジチャレンジャーの白のボディラインと、白い砂漠が相まって幻想的である。まるで天国にでもワープしたような幻想性も、聖性を想起させる理由。
映画の構成としては、序盤にラストのショットを見せて、そこから物語が始まるというフィルムノワールの形式に従っているのも特徴。様々な意味合いでとても印象に残る。
この映画の一番の魅力というのは、恐らく多くを語らずひたすら品の有る演出をしながらも迫力のある映像で見せるカーアクションで展開される所でしょうね。そして、やっと追いつけそうになったというのに、最後は空しくもバッドエンドに終わるというのも素晴らしい。
この男が何に駆られてダッジチャレンジャーを走らせたのかは最後まで分からないが、彼をどこかで応援してしまう所にこそ、やはり映画の本質が詰まっているのでしょうね。余計な言葉でキャラクター化する必要などないのでしょうね。
いずれにしても見れて良かったと思います。もっとアメリカン・ニューシネマを見てみたいと思いました。他にも『ダーティーメアリークレイジーラリー』とか『イージーライダー』とか、この映画に影響を受けた『デスプルーフ』とかも見てみたいと思いましたね。