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絞殺の消費者のネタバレレビュー・内容・結末

絞殺(1979年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

名門高校に通う勤勉な少年、勉
彼は画家のドラ息子でエリート主義な父と親バカで過干渉な母の期待を背負って勉強ばかりをし続けてきた
しかし恋人である同じクラスの少女、初子が死んだ母の再婚相手である義父によって陵辱を繰り返された末に彼女が義父を殺害し自らも川に身を投げ命を絶った事を契機にこれまで自分が両親に課せられてきた抑圧に対する怒りを爆発させ家庭内暴力や母の強姦未遂などを起こす様になる
そして身の危険を感じた父によって彼は絞殺されこの世を去ってしまう
というあらすじの実話物作品

本作は学歴やエリート性を重んじる両親からの圧力に耐えかねて父への憎悪と母への歪んだ愛情を暴走させる少年の物語となっていて現代においてもいくらでも起こり得る物語となっておりこの作品を鑑賞しただけだと勉への同情心と家族の悲劇への虚しい感情を覚える

しかし実際の事件の概要をWikipediaで読んでみるとどうも実際の動機は違う様で周りがエリート職の親を持つ生徒ばかりであった故に抱いた父がスナック経営者である事へのコンプレックスと一家の絶対的な権威であった祖父の死去によって家庭内暴力を振るう様になったらしい
そして作中では勉は母を犯そうとするのだがこちらも実際には近親相姦の関係があった様である
それを踏まえると実際の殺された少年は父に植え付けられたエリート思想によって劣等感を肥大させた末に爆発してしまったと捉えるのが自然である

事件を風化させない為に物語を通してそれを作品として残す事には賛成だ
しかし事の本質を変えてしまう様な脚色を加えてしまうと話が変わってくる
現実の悲劇には教訓が込められている訳ではなく被害者がそこに実在するからだ
そこだけは真摯に扱わないと被害者への冒涜にあたると言えるだろう
そういう意味での残念さは感じた

実際の事件と切り離して考えれば親子の関係性やそれによる歪みのリアリティーがちゃんとしていたし敢えて母を演じる役者に美人を採用しなかった点も事の生々しさを強調するのに役立っていて悪くなかったと思う
だが逆に勉の恋人である初子はパッとしない地味な人に演じさせていたのは少し話のドラマ性を活かしきれてないキャスティングなのではと感じた

あとこれは昭和の作品だと珍しくなさそうだし仕方のない事ではあるのだが随所に映像の芸術性を追求してかシュールな演出が入ってくるのが少し気になった
特に勉と初子の雪上セックスと近所の住民達の徹底した父母への同情と協力を激しく示す場面はややコントじみていて実話を元にした悲劇である事を考えると緊迫感が終始あるべきなのにそれを邪魔していた様に思える

物語の終末から結末にかけての展開はメッセージ性の表現として秀逸だった
勉が殺され自首した夫は情状酌量で執行猶予を得て釈放され帰宅するが彼の反省の色の見えない振る舞いや勉が生前にノートに記したこれまでの父の蛮行への恨みの文章を目にして夫の問題点を自身も理解した事で夫の身勝手な子殺しとそれに賛成してしまった自分への絶望で命を絶ってしまう、という物だ
ここはかなり事実に基づいた展開なのだが母が勉の暴走は自分を愛するが故に守る為の物だった事を知って今は亡き勉の愛情に欲情し自慰に耽る描写によって現実の近親相姦が示唆されており過干渉な母の歪な息子愛が的確に表現されている

厳格で理不尽な父への憎悪は表せても愛情ゆえに過干渉してくる母は憎みきれない、というのが機能不全家族の描写として優れた作品だったと思う
また79年公開でありながら家父長制への異議や夫婦の間柄でもレイプは成立する、という事が示されていたのも社会派昨日として先見の明が感じ取れて良かった
ただそれだけに冒頭で薮の中で勉が初子とセックスに及ぼうとする場面がレイプではなかったと示す場面が無かった為に彼への深い愛情を彼女が示す展開に上手く繋がっていない点はシンプルに疑問ではあったけど…
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