唯

ファーストフード・ネイションの唯のレビュー・感想・評価

3.8
「善人対悪人の話じゃない。大企業に支配された国の話だ。土地にも牛にも人間にも企業は容赦ない。すべては利益のため。目先の利益を追求するためだ」

働くことの意義や目的も金の価値観も常識やモラルの基準や尺度も、人によってあまりにも異なる。
同じ会社に勤めていても、皆のゴールが「美味しいハンバーガーを提供すること」ではない。
金を稼ぐためであったり、自尊心を満たすためであったり、出世するためであったり、誰もが自分のことしか考えてはいない。
そもそも、企業自体が金儲けを目的としているのであって、そこで働く人や提供相手であるカスタマーの幸福など追求していない。
正義などどこにもない。

大量生産を目指すには、人員を管理し統率し最大の利益を生み出す必要がある。
その過程の中で人々は均一化され抑圧され、だけれど生きるためには辞めることも出来ず、鬱憤を抱えたまま心を殺して会社に縋り付く。
従業員へのハラスメントは横行し、利益のためなら人間扱いもしない。
歯車として駒としてしか人間を見ていない。
「早くて安くて旨い」には大きな犠牲が伴う。
会社全体、国全体の病理だ。

殺されると分かっていても逃げ出さない牛達の様に、人々は企業に利用され洗脳され思考停止している。
自由を求めた先に必ずしも幸福があるとは限らないしね。
だったら、愚痴を言いながら死んだ目をしながら取り敢えず生きては行ける今の場所にいれば良いや、と考えてしまう。

私達が享受している美味しいには、これ程に残酷なストーリーが無数に存在している。
誰かが今この瞬間も犠牲になっているのだ。

考えることを自由を求めることを許されず、皆が同じ様に従順に使えることを余儀なくされる。
エンドロールで流れる、ライン上の肉の塊が国に使われる市民と重なった。
唯