踊る猫

「A」の踊る猫のレビュー・感想・評価

「A」(1998年製作の映画)
3.9
麻原彰晃とは一体何者だったのか。このドキュメンタリー映画に麻原は現れない。彼がなにかをコメントすることはない。だが、登場するオウム真理教の信者たちは彼の声を代弁し、彼に忠実であろうとする。そんな彼らに対して向けられる、正義を代弁したかのようなマスコミや警察や市民の声は届くのだろうか。いや、マイルドな「対話」の重要性を強調することなら誰でも言えるのだが……そんな中において、このドキュメンタリー映画はミクロな(マニアックな、とも言える)視点を保ちカメラを回し続ける。殺生は悪だからとゴキブリを逃がす信者(むろん彼らの「殺生」にまつわる考えに対して、森達也は鋭いツッコミを向けるのだが)、あるいは荒木広報部長の荒れた足、等など。そうしたブレイディみかこ的に言えば「地べた」からカメラを回しそこにあるものを撮さんとする姿勢が信者たちの心のバリアを外し、人間味あるドキュメンタリー映画を作ることに成功したきっかけではないかと思う。それにしても、なんと日本的な映画だろう。「グッドナイト・ベイビー」が流れる中での公安と信者のやり取りが滑稽で、そして「それ故に」痛ましく感じられた。狙ってやったわけではないだろうこの「外し方」が森達也ならでは。
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