◎タランティーノ味感じる売春麻薬Noir in 対馬

1960年 新東宝 カラー 76分 シネマスコープ
＊若干のホワイトノイズ、多少の褪色あり

意外にもこれは面白かった。

冒頭に仰々しく白抜きの筆文字で「東洋のカサブランカと言われた対馬」なんて字幕が出るが、そんな話初めて聞いたぞ。
それに「かつては侵略の基地となり」とかの字幕も出てたぞ。大蔵新東宝でも「侵略」って言ってたんだ、と新発見。

この対馬に、『女体桟橋』の伝で、日本人女性を海外に売春婦として輸出する国際売春組織の中継基地のバーがあって、真山百合（三原葉子）が支配人を任されているという設定。

【以下、念のためネタバレ注意⚠️】








鳴門海峡ではないので、渦潮は起きないはずだが、玄界灘を蛇行しながら北流して好漁場の揺籠となる対馬海流のことを「渦巻」と洒落た模様。

こうなると、映画のタイトルか、判じ物なのか、もう訳が分からない。

冒頭は、いつもの石井輝男印の露出の多いダンサーたちによる本格的なダンスシーンから始まるのだが、それが対馬の中心ながら港町としてはどう考えても小規模な厳原にあるというのだから逆に面白い。

確かに、バーの外に出ると、すぐに漁村風景になって、漁民たちが精出して働く光景が広がっている。

よくぞ対馬でのロケを敢行したものだと感心しながら観ていたが、実際には千葉の勝浦でロケしたそうだ。

それにしても、売春と麻薬取引の秘密組織のアジトがある暗黒街的な世界と、荒波洗う玄界灘の漁村風景との取り合わせは何ともミスマッチで面白い。
イタリアマフィアもののシチリアあたりのイメージを重ねたのだろうか。

主役は、陳雲竜（天知茂）という古い京菓子みたいな名前のボスがトップの香港マフィアのガンマン大神信彦（吉田輝雄）。

ボスに無断で、昔の恋人の百合を訪ねて対馬にやってきたという。

最初、この吉田輝雄のセリフがあまりにも棒読みで、宇津井健といい、石井輝男は、濱口竜介みたいに俳優にあえて棒読み口調を強制しているのかと思ったら、初主演で本人ガチガチに緊張していたのが真相らしい。

主役の信彦はじめ、皆いちいちカツコ付けたセリフばかり口にするが、どうも芝居が段取り染みていて何だかなぁと思っていたら、中盤以降、やたら面白くなってきた。

まず渡辺宙明の音楽が、常に大きく自己主張して派手にドラマを煽って、作品そのものの推進力になっている。

時どき歌も入ったりして、ムード歌謡風だったり、メキシカン風だったりする音楽は、タランティーノあたりが好んで使いそうなエモい劇伴が多かった。

次に、今だったらレイティングの対象になるはずだが、女たちは全員ヤク中にされていて、禁断症状に呻くあたりから色々面白くなってきた。

なかでも陳雲竜に薬漬けにされた上に手籠にされて信彦から引き離された百合が、信彦が好きなアブサンをあおったかと思うと、ラリった状態で踊るダンスが何とも珍妙で、浅見比呂志が
「🎵今夜は死ぬほど酔いつぶれ〜」
とガナって歌う無茶苦茶ロカビリーの可笑しさとともに、強烈な印象を受けた。
（下記のブログの最後に、この禁断のシーンの動画へのリンクがある。）

＊1 アパッチの映画EXPRESS
女体渦巻島　2015-06-08 17:55:47
ameblo.jp/bareras/entry-12035182991.html

天知茂の陳雲竜は、ラスボス的に終盤で出て来るだけだが、ガンマン信彦の吉田輝雄が強過ぎて、たった一人で陳はじめ香港と対馬のマフィアたちを全員やっつけて警察に引き渡すのだが、肝心の愛する百合も残念ながら凶弾に倒れてしまうのであった。

まぁ色々、切って貼ったようなツギハギ感満載ではあるが、終盤の理屈抜きの盛り上がり方は、なかなかやるじゃないかと思った次第。

《その他の参考》
＊2 邦画ポラロイドβ版
女体渦巻島（じょたいうずまきとう）
石井輝男　1960/02/27
pochiyo2.blog117.fc2.com/blog-entry-57.html

＊3 セーヌ川闊歩の生活と意見
DVD『女体渦巻島』（1960年2月 / 新東宝）
2011-05-15 21:02
etvoila.exblog.jp/13316980/

＊4 T’s Line blog-映画についての備忘録-
2018-02-23　石井輝男監督「女体渦巻島」
kinakossu.hateblo.jp/entry/2018/02/20/095133

＊5 日本映画ブログー日本映画と時代の大切な記憶のために
女体渦巻島（1960）　2014-03-07 17:36:46
ameblo.jp/runupgo/entry-11789661957.html

＊6 監督石井輝男Filmographie 女体渦巻島
www.ishiipro.com/film/17_jotaiuzumaki.html

＊7 女体渦巻島
1960年2月27日公開、76分、アクション
moviewalker.jp/mv22753/

＊8 ドレミファ息子の血は萌える
吉田輝雄様、シネ・ヌーヴォに来たる
2010/09/06 00:56
kawagon.blog49.fc2.com/blog-entry-158.html

《上映館公式ページ》
シネヌーヴォ日本映画大回顧展
新東宝 映画まつり
　Preseted by 新東宝キネマノスタルジア
2024.7.6〜9.6 シネ・ヌーヴォ
www.cinenouveau.com/sakuhin/shintoho2024/shintoho2024sakuhin2.html

東洋のカサブランカ玄界灘・対馬って製作当時でも酷すぎるだろ、そんな悪いギャングたちが巣くうイメージの悪い対馬で繰り広げられるドラマはいかにもこの当時の新東宝らしい荒唐無稽なアクションもので特に新味もなし。

それでもこの映画が結構面白いのは麻薬中毒になったヒロイン三原葉子の存在感が大きい、彼女がやけ酒を呷って踊りまくる(しかも麻薬の幻覚も入ってくる)トリップ演出は良かったけれどこの映画の頂点はここであとは平凡な内容に。それでも後半結構盛り上がるのはさすが石井輝男監督。

対馬の女売買ビジネスもの。これはかなり好き。
妙な色使いと、ヘンテコすぎる三原葉子のサイケなダンスシーンが良い笑

ラスボスの天知茂がオールバック&口髭&スーツで超絶イケメンである。

しかし輝男は島好きだな島。