みかぽん

ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポのみかぽんのレビュー・感想・評価

3.8
↓↓ストーリー語りが大半なのでネタバレと思われる際は以下ご容赦ください💦





大谷(間違いなく太宰治)はツケで飲んでいた店から(返すどころか!)金をふんだくったため、佐知(大谷の妻)は、自ら人質代わりにこの店で働きはじめ、望むと望まぬに関わりなく、外の世界に触れることとなる。

佐知が大谷と知り合ったのは、まったくの偶然だった。
佐知は当時、弁護士を目指す辻という男が好きだった。司法試験に落ち続けるこの赤貧男が、寒さに震え、「せめて暖かいマフラーが欲しい」といった言葉に触発され、佐知は生まれて初めて万引きをしてしまう。
佐知は捕まるが、私は両親を支え、今日まで一生懸命に働いてきた。好きな人が寒さに耐えていることが不憫で、ただ暖かい思いをさせたかった。これから私は留置場に入らなくてはいけないのですか、私は今までの人生を台無しにするくらい悪いことをしてしまったのですか、と警官に訴えた。

交番の周りには人だかり。しかし、当の辻は自分の経歴に傷がつくことを恐れ、佐知を見捨ててその場を去った。その反対に、偶然そこに居合わせ、彼女の訴えに心を動かされた大谷は万引先に品物代金の倍額を払って示談とし、警官に啖呵を切り、面識のない彼女を救いだした。

この日、佐知は好きな男に見捨てられ、しかもその先の人生さえどん底になりそうな中で、見ず知らずの大谷に救われたのだ。

とはいえ、大谷は元祖ダメンズ…。
結婚しても家に金を入れないどころか、彼女が稼いだなけなしの生活費すら酒代としてかすめ取る。そのうえ外には女がいて、家にも帰ってこない。

2歳の子供を抱え、客に酒を出し、それでも佐知は少しも辛そうにしないし、大谷を責めたりもしない。しかし、そんな佐知が大谷には脅威なのか、あいつの心の中にはまったり澱んだ沼がある、などと毒づく始末。

放蕩を繰り返すくせに、反面、佐知に思いを寄せる男がいると知るやいなや、速攻で二人の逢引きを妄想し、嫉妬深くネチネチと佐知に絡む。挙句、自暴自棄になって外の女と心中騒ぎ。
この事件で殺人未遂で立件させられそうになれば、佐知は大谷の弁護のため、自分を見捨てて立派な(?)弁護士となった辻にすがるしかない。

こうしていつもロクデナシ男の尻拭いをし、遂には今やすっかりスノビーな辻に、お金で返せない借りを払うことまで余儀なくされる。

なんでさっさと見限らないかが不思議極まりない関係だが、彼女はどん底の自分を救ってくれた、人間として不完全で弱い自分自身に苦しみ、葛藤と逃避を繰り返すこの男を受け容れ、なにがあっても支え切るのだと(多分、無意識の中で実にあっけらかんと)括っているのだから仕方ない。

「人非人といわれたっていいじゃないですか。私たちは生きていさえすればいいのよ。」ですと。そんな最低ラインでOKの線引きなんかしちゃったら、大抵のことどころか、全ての災いだって容易に赦せちゃうってことじゃないの😵??)

私はこの物語に、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」やフェリーニの「道」、あとちょっぴり、「夫婦善哉」を重ねてしまった。

ちなみに、「ヴィヨンの妻」のヴィヨンは、15世紀のフランス詩人、フランソワ・ヴィヨン(=無頼と放蕩の代名詞となった御大)にあやかっているみたいです。
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