海

ナイルの娘の海のレビュー・感想・評価

ナイルの娘(1987年製作の映画)
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温もった布団の中で、夏みたいな薄着で、丸くなって画面を見つめつづけて、映画がおわれば、電気をつけないまま暗い浴室の、湯舟に膝を抱え浸かって外の、この狭い区画に這入ってくる車の音や、聞こうとしなければ認識できないくらい聞き慣れた虫の声に耳を澄ませながら、目を閉じて、そんなとき自分は、誰かの手によって夢を見せられているか、あるいは誰かの何かの目的のため夢の中に生かされているような感じがしてくる。それは悲しくなくて、その狭い世界で、わたしはわたしの世界に気づいているのだから、しあわせな駒じゃないかと思う。楽して生きたいとは思わなくて、漠然としあわせになりたいと願うこともなくて、わたしは傷ついて悲しんで苦しんでようやくわたしで居られるくらいが、ちょうどいいんだ。そうじゃないとダメなんだ。そうじゃないと、今と同じようには、夢をみられないだろうから。この世にはしあわせしかないと思い込んでしまったら、その瞬間、この愛はきえるだろうから
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