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つみきのいえのshihoのレビュー・感想・評価

つみきのいえ(2008年製作の映画)
4.6
【想い出がその人を生かす】
もっと悲壮感のあるアニメーションかと思ったら、思いのほか温かく、途中から瞳うるうる、最終的に涙がつーっと頬を伝ったのであった。

〜あらすじ〜
水地に立つ家。だんだん水かさが増すごとに上に上にと家を増設し続けながら住み続けているお爺さん。小さな部屋の壁面には家族写真と思われるものがヅラッと並んでいる。
また更に水位が上がり今の居住部も使えなくなり増設を進めていたある日、肌身離さずくわえている葉巻を水の中へ落としてしまう。きっと思い出の詰まった大切なものなのだろう、行商から代わりの品を買うよりも潜水服を買っていざ水中へ取りに行く!(大丈夫か!老体だぞ!)
この家は水に沈んでしまった部分を合わせると6〜7階分くらいあって、お爺さんが1階下りるごとにその階での思い出が甦るのであった。
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無情にも迫る水位、上に行けば行くほど文字通り先細りして小さくなっていく家、雨の日も風の日もレンガで家を伸ばすお爺さん、一人でテレビを見ながら取る食事…。ここまでは大変物寂しく、孤独を感じる。正直この生活を強いられたら、私ならしんどくて入水してしまいそうですらある。何がこの老人を生かしているのか、それは大切にずっと飾っている写真たち、つまり幸せな家族の想い出である。

”続いてく時はいつも止まらずに変わってく 街も人も愛も皆
ずっと忘れない 離れても挫けない
生きていく今日から 優しさと勇気をくれたよね”
(SPEED 「My graduation 」より)

愛し愛された記憶が彼を生かし続けているのだと感じた。

もしかしたらこの記憶、多少お爺さんの都合の良いように曲解されてる部分あるかもしれないな(笑)と女性側の私は少しリアルなことを考えつつも、蘇る過去の記憶はどれも幸せで温かく、その時は特別に思っていなかった日常の風景から人生の記念日、ふとした瞬間を切り取ったものまで人生の色々なことが後から振り返ればもう戻らない、キラキラ輝くその人の宝物なんだなと思った。

終わり方もとても良かった。奥さんのことを心から愛していたんだな。愛する誰かを想う時、人は優しい気持ちになれる。なにかを誰かと共有することに喜びがある。世界には愛が必要だ。

きっとそう遠くない将来、このお爺さんはここには住めなくなるのかもしれない。けれど限界まで思い出の詰まった場所にいたいんだろうな。戦争で避難しないと死ぬかもしれないのに「ここで生まれてここで育って結婚して子供も育てた。死ぬなら自分の家で死ぬ」と言うお年寄りの気持ちが分かった気がした。積み重なったやや歪な階数はこのお爺さんの人生を積み重ねてきた証でもあるのだ。家(home)とはなにか、ということも考えさせられた。

てっきり海外産かと思っていたら日本産だった。さすがである。味のある音楽とアニメーションで、12分とは思えないほど濃密だった。短時間で胸に沁みる良作でした。おすすめです!
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