るるびっち

無責任時代のるるびっちのレビュー・感想・評価

無責任時代(1937年製作の映画)
3.5
これを観ると、ウィリアム・A・ウェルマン監督はあまりコメディが上手くないなと思う。
ウェルマン的な社会批判よりも、ベン・ヘクトの雑な脚本術が目立つ。

生き馬の目を抜くNYで、インチキでセンセーショナルな記事の得意な新聞記者が、田舎の純粋そうな女性に逆に騙されるという趣向。
マスコミの大衆扇動や、調査の浅いジャーナリズムを批判している。

ヘクトのコメディは、狂人・変人が出て騒々しく嘘や騙しを繰り広げる物が多い。主人公が職業的エゴイストで、目的の為になりふり構わない所が特徴。エゴイストだが職業へのプライドが感じられて、人でなしと思う反面、その熱意に感動もするのだ。
今回は『特急二十世紀』『ヒズ・ガール・フライデー』のように、なりふり構わない側が新聞記者の男性ではなく、難病のフリをしている女性の為、あまりエゴイストに描けず面白さが半減している気がする。
キャロル・ロンバードがその辺をチャーミングに演じているので、余り酷い嘘つき女とは思わない。その分、ヘクト的な人でなし感が弱い。
いつもは目的の為、なりふり構わない男と脇に出る狂人とのアンサンブルでスクリューボール(予測不能な変化球)になるのだと思う。
女性主人公をなりふり構わぬエゴイストに、この時代はまだ描き難い。
彼女は黙っていたが、積極的に嘘をついている訳ではない。その辺は男性主人公のようにエゴイストに描けない。
そこが裏目に出ているのではないか。
(『ハスラーズ』の反応を見ると女が男を騙すと反感を買うから、現在でも女性エゴイストは描き難いようだ。観客の許容量の問題)

ラジウム中毒で余命幾許もないロンバード。彼女をNYで過ごさせ、残りの人生を独占リポートで世間の涙を誘う記事を狙う記者。
しかし難病は誤診で、彼女はNYに行きたい為、事実を黙っていた。
散々世間にアピールした挙句、実は健康体と明かすことも出来ず、自殺狂言のドタバタを繰り広げる。
しかしウェルマンだから、彼女が健康と解った途端、嘘を真実にする為に、強引に難病に仕立てあげるのではないか。
マスコミが記事を真実に変換する為、現実の方を歪める。
健康な女性をムリヤリ被爆させてしまう。
彼女に同情的だった世間や関連団体、特に宗教団体が嘘を真実にする為に非人道的な所業に賛同する。社会の恐怖も描ける。
そんな恐ろしいブラック・コメディかと思いきや、そうではなかった。
軽く世間を欺くドタバタはあるのだが、恐ろしいものではない。
ウェルマンよりヘクト寄りな内容。
どちらにしても毒が薄く、詰らない。
ヘクト的なエゴイストぶりも、ウェルマン的な社会批判もどちらも薄いのだ。
やはり後半は、ウェルマン的な社会の残酷さを描いた方が良かった。
それでブラック・コメディとして着地していれば傑作になっただろう。
るるびっち

るるびっち