タスマニア

おくりびとのタスマニアのレビュー・感想・評価

おくりびと(2008年製作の映画)
3.5
2020年66本目。

日本人的な考えや文化が詰まった邦画らしい、良い映画。
久しぶりに見たけど、自分の死生観や死への考え方に対して優しく語りかけてくるような映画。大事な人と共有したいような作品。

冒頭から納棺師の仕事振りを見せつつも、いきなりコミカルな展開。
社長と小林のキャラクターが垣間見れる良い導入。
思えばこの映画は納棺で始まり、納棺で終わる。
その仕事一つ一つに異なるメッセージや意味合いが持っていて、とても重厚な構成に感じる。

映画の作中に登場する人物は、山崎努しかり、吉行和子しかり、笹野高史しかり、年配の人ほど良い言葉を持ち、とても良いシーンが多い。
歳を重ねて多くの死に出会い、既に皆身内を亡くしている身。
「死」への向き合い方に関して金言を残してくれる。
「LUCKY」を見た時も思ったけど、これはシンプルに年の功。
これからもたくさん学ばせていただきたい。

特に個人的には笹野さんが良い仕事してた。
銭湯での初回の登場や、鯉の川上りを見つめるシーンなど、随所で大切な言葉を残して、フリを聞かせておいて、火葬場での登場。
「ここにいらしたのですね」と小林が言ったように、驚きもあるけど、何か合点がいくような展開。
棺の窓を閉めるその間際に「ありがとうな、また会おうな」という言葉をかけるところはグッとくる。
そうか、「また会おう」なんだな。死が我々より相対的に身近に感じられている人にとっては、また会う日の方がより近く感じられるだろう。素敵な捉え方で、素敵な約束事。

また、故人にかける言葉に「ありがとう」というのはシンプルだけど、素敵だ。勿論悲しみも大きいけれど、涙を流しながらも「ありがとう」と感謝を伝えることが大切だと思った。
少し話は違うが、YouTube で愛犬の最期を看取る動画を見たことがあるが、その中でも飼い主の方がしきりに「ありがとうな」と言っていて、とてもジーンときたことが思い出された。

終始「死」への向き合い方や「どう人生を終えるか」を考えさせられるけど、一方では、「生きている間に大切な人とどう向き合うか」を考えさせられるシーンも多かった気がする。

納棺師という仕事を妻や周りに受け入れてもらう、理解してもらう。
仕事と家族と向き合うこと。
大切な人には自分が大切だと思っている仕事をしている姿を見てもらうのは恥ずかしいけど、とても良いことだと思った。
大人版授業参観だ。
恥ずかしいけれど「自分はこれを一生懸命やっているんです」と伝えることって、とても大切。

また、石文というツールも登場する。
これまた人に思いを伝えるをテーマに持っている。
言葉を持たない時代に、この抽象的な方法で相手に気持ちを伝えて、解釈を相手に委ねられるその関係が、とてもロマンチックに感じた。

「生きているうちに大切な人に大事なことを伝える」というテーマにおいては妻を演じた広末涼子がとても良い役割を演じている。
夫を愛し、夫を案じ、夫を信頼して、それ故に夫に腹が立つ。
女性としても人間としても妻としても魅力的過ぎやしないですか笑

「夫は納棺師なんです」と放つ言葉に覚悟と表明の気持ちがこもっていて、良い妻すぎた。

事務所で食べてた白子とチキンが美味しそうだった。
「死」に直面した後に「生」を全身で浴びるために必要なのは
美味しいご飯を食べるか、愛する人に抱きしめてもらうか。
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